♯6 アザゼル・ハイド

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「その男が、アザゼルと名乗ったのだからもう、最近ではロンドンじゅうはその噂でもちきりですよ。ご存知ありませんか?」 「さあ、僕は知りませんね」  すぐさま否定したのは、デリックだった。まるで友人をかばうような口振りだった。 「わたくしも……存じませんな」スチュアートがあたりを警戒するように身体を緊張させている。彼の特徴であり癖とも言うべき疑わしげな瞳がぎこちなくさまよい、再び床に視線が落とされる。 「別の話では――」ブラッドリーがようやく口をひらく。 「アザゼルたちの高慢さが、原因とも」 「ほほう」クレイグが興味深い吐息をつき、ブラッドリーを見やった。 「天地創造において、神は土の塵から人を造り、その鼻から息を吹き込んで生命を与えた。有名なアダムの誕生だ。アダムは、神が造ったというところで、天使たちを取り込もうとした。が、アザゼルたちは『塵からうまれた人間に屈するべきではない』と拒んだ。このアザゼルたちの行為が神を否定するものに同等と見なし、神はゆるさず、天使たちを天上から追放したという話もある」 「ほう、なるほど」クレイグは語尾を上げて、話をうながした。
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