♯6 アザゼル・ハイド

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「アザゼルは身分の低い天使だったが、熱心な天使でもあった。地上では、人間が増えることに比例して、悪事も増えた。アザゼルは、天地創造のときに、人間をつくることを反対した一人だったのだ。アザゼルは、グリゴリ(見張り)として二百人の仲間と地上に降りた。アザゼルはすぐに天上のことなどどうでもよくなった――」  先ほどクレイグがした内容をより詳しく、ブラッドリーが話している。その熱心な様子が意外で、ジュリアは気になって仕方なかった。そして、その答えを探したかった。けれど、彼の表情や話の意図するところからは、なんの答えもなかった。表情は一切なく、感情は見慣れた礼儀正しい仮面の下に隠され、どこを見ても、内心の欠片すら表れていなかった。だが。 「アザゼルは、人間の娘と恋に落ちた」  その一言で、自分のことではないのにジュリアはどきんとして、一輪の薔薇が可憐に花開いたように心が浮きたった。 「一緒に来た仲間のシェムハザに、人間と結婚すると伝えると、彼に反対され、しかし他の仲間たちは地上で恋人を見つけていた。地上に来た天使たちは、人間の娘と結婚する計画を立てて、アザゼルも人間の娘と結婚する」  内容は同じなのに、ブラッドリーが口にする話には、どこか純粋なアザゼルの思いが込められているように思えた。 「グリゴリたちは、医療や薬草、化粧、呪いの魔法などなんでも人間に教えた。グリゴリたちと人間の間にうまれた子どもは、巨人のネフィリムであり、彼らは人間の食べるものを食べつくし、それさえなくなると、つぎは巨人の共食いがはじまった」 「ほう、さすがは博識でいらっしゃる」というクレイグの言葉を、ブラッドリーは片手で(さえぎ)った。
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