♯7 芥蔕(かいたい)

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 ふたりはそれから、それぞれの上掛けの下にもぐりこんだ。すぐに睡魔が襲ってくることを願ったが、ルーシーとの会話で、落ち着かない。それでも、疲労感に満ちた一日だったので、瞼がしだいに重くなり、頭がぼんやりしてくる。横向きになり、目を閉じて、規則正しい呼吸を意識しつつ、現実と夢の間をふわふわと浮かびながら、心地よい眠りに()り立てる場所を探した。  しかし、考えれば考えるほどに、目が冴えてくる。到底甘美な眠りへたどり着けない。輾転反側(てんてんはんそく)するしかなかった。不眠が習慣になりつつある。  ジュリアはため息をつき、上掛けを(めく)って、ベッドの端へ座り、脚をおろした。ショールをつかんで、はおり、立ち上がると、ルーシーのベッドのそばまで歩いていく。あっという間に熟睡したルーシーは、横向きで身体を丸め、両手を前に出している。ジュリアは足音を忍ばせて、そっと部屋を抜け出した。  ランプを使いたかったが、我慢して闇のなかを壁伝いに手探りで慎重に進み、階段をおりていく。本、とジュリアは考え浮かんだ。ブラッドリーならば、この頭がはっきりして、眠気のない自分の心を落ち着かせて眠りへ導いてくれる本を、きっと持っているだろう。例えば、詩集や物語。先んじて知った、『ウナとライオン』のような話で、自分にも読めるような本を。  気になる本があれば貸してくれると言っていた。そんなことを考えながら、ジュリアは書斎の前まで行った。  扉の取っ手に触れたとき、階下からのっしのっしという音がして、階段のきしむ音がした。誰か来る。ジュリアは、取っ手を握ったまま、身動(みじろ)ぎできなかった。
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