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ジュリアは、瞬く間に身をひるがえして書斎へ逃げ込んだ。脚に力を込めて、取っ手を全力で引っ張り、扉を閉めている。
ドンドンドン! と荒い手つきで扉が叩かれる大きな音がする。取っ手が反対側に引かれて、扉がうっすらと開く。これで取っ手が外れてしまえば一巻の終わりだ。
ジュリアはぎゅっと目をつぶって、現実を遮断しようとした。忘れ去りたかった。一羽の鳥となり、遠い遠い彼方の空の高みへ逃げていき、かつて愛してくれた母や継父とともにこの状況を眺めていたい。誰も助けてはくれない。わかっている。自分で立ち向かわなければ、何も解決しないのだから。
凍えるような部屋で身を震わせながら、とにかく扉さえという思いで、意識や神経をすべて傾注し、入ってこないで入ってこないでと、何度も胸のうちで叫んでいた。
荒れ狂う攻防。扉がギシギシと音を立てて、いまにも壊れそうだ。あらんかぎりの力でガタガタと震わせる。相手が勢力を増して、さらに激しくなっているのがわかった。凄まじい力が、取っ手を、手を、指を、腕を、脚を、全身を、おそらくは壁をも揺るがし、もう終わりだという諦めの思いを心に忍び込ませる。
ああ、本当に終わりだと、なかば降伏しかけたとき、バタンッとジュリアが扉を閉めきった。扉の向こうで咆哮が響く。まるで苦しそうな。受け入れられない状況に対する嘆きにも似ていた。
相手が、降参し、もたれたかのように、扉がドンと鳴って、音を立てながらずり落ちていく。
ジュリアはしばらく警戒し、取っ手を握る手を緩めなかった。だが、相手はそれきり動かなくなった。でも、いる。扉の向こうに、確実に存在する、相手の重みで扉がびくともしない。
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