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あれきり彼は口を閉ざしたきり、何か考えごとに没頭しているのは明らかだった。あの鋭い眼差しは窓の外へ向けられたまま、もしくは自分の手を見ていたのかもしれない、とにかく馬車のなかがより狭く感じられた。馬の嘶きを残して、馬車がぐらりと揺れてとまった。
「ついたぞ」ブラッドリーは馬車からおりると、再び驚いたことに、振り返って手を差し伸べた。その手におずおずと自分の手を重ねて、彼の行動に真意を探りつつ、ジュリアは馬車を降りた。
彼は、リリスが忠告するほど強引なのだろうか?
彼の振る舞いは、娼館を出てからというもの、いたって礼儀正しく、口数が少ないものの話がわかる人物のように思える。それは、見せかけなのだろうか?
リリスに対しても確かに、先ほどは彼女を母親のように感じたばかりだ。
そのような受けとめる側の心の変化はあるのだろうか? また、それは稲妻の瞬きのように、突然起こるものなのだろうか?
重ねた手が下におろされると、そっと彼の手がはなれた。
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