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「わたしはそんな……」というジュリアの声もかすれていた。
出し抜けに質され、それに見合うだけの返答も勇気も持っていない。誰もそのような個人的な質問を、仕事以外でジュリアにした者はいなかった。
「……旦那様が興味を抱かれるようなものでは」
無意識のうちに視線がふらふらとさまよい、やがて目を伏せた。そこまで彼が深く考えていたことに、ジュリアは驚き、戸惑い、自らのこれまでを語るという行為が恥ずかしかった。
キスの余韻がおさまることなく、再び鼓動が速くなる。それは別の意味を持たせていた。
姉のケリーがリリスの娼館を辞めさせられたのは、なにも器量の悪さや妊娠が理由ではなかった。
継父も母も亡くなっていたために、ケリーは温かい家庭や、いつもそばにいてくれる男性との結婚に強い憧れを持っていた。現実から目を背けるようなところは世間知らずにうつり、最初に出会った男から見れば恰好の存在だった。
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