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鼻を擽るかおり――これは野菜と肉の煮込み。細かく切った人参やじゃがいも、あらかじめ茹でておいて柔らかくした肉が入って、とろりとするまで煮込む。煮立たせてから三十分ほどだろう。野菜の新鮮な匂いがかすかにする。グツグツ煮ている大鍋のなかを木のヘラでかき混ぜているペギーの様子が脳裏に浮かぶ。
つぎの瞬間、ジュリアはぱっと目を見開いた。
ブルーの壁と、そこに飾られた上品な絵画が目に飛び込んでくる。分厚いカーテンの隙間からは朧げな光が差し込んでいる。ここは、彼の寝室だ――しかも朝を迎えている。
寝ぼけた頭をしっかりと働かせるために少しの時間を要した。わずかに身を起こし、波打つ髪をまとって肩ごしに振り向く。すると、ブラッドリーが実に穏やかな顔で眠っているのが見えて、ジュリアは深く息を吸い込みながらそちらへ体を向けた。
密に生えた睫毛、まっすぐの鼻、無造作に散らばる髪。寝顔へ手を伸ばして、そっと触れようとする。が、頬の高い部分まであと少しのところで力無い拳に変えて、あきらめた。
深い眠りを妨げることに気が引けた。
はっと我に返って、ランプの隣に置かれた、彼の懐中時計を見る。七時二〇分。いつもスチュアートが散歩から帰ってくるのが、八時だ。
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