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一
ひぐらしの声澄み渡る季節。
平安の都は今日も雅な音色に包まれていた。
そんな都から人里離れた洛北の山奥。竹生い茂る藪を抜けた所には、小さなお屋敷がぽつねんと佇んでいた。よくよく見ると、どこか廃れた印象を与えられる屋敷だ。
──そこそこの年季物といったところか。
都の音色が微かに聞こえてくる。だが大半は笹が風に靡かれる音、鶯の声、虫の音が強い。実に長閑だ。澄んだ空気はまろやかで美味。
「ごめんください」
そこに、小さな門前へ一人の女人が現れた。
壷装束に身を包んだ美しい女人だ。ぬばたまのやうな艶々とした黒髪。纏う気は、清廉そのもの。顔は市女笠に隠れよく見えない。
だが、恐らく印象通り美しい貌をしているだろう事が安易に想像出来る。
「はあ~い。ちょっとお待ちくださいね」
やがて、門奥から甲高い間延びた声が流れてきた。女人はその声に従い、静かに門前で佇んだままでいる。
すると程なくして、漸くとその門は動かされた。静かな音をたて、ゆっくりと開かれていく。
「ようこそお出でなさいました。怪異調査屋、若葉にございます」
頭を垂れ、赤の手甲がされているぴんと揃えた指先は膝元へ。手首には何やら漆黒の数珠が潜らされていた。
先程の女人とは些か印象の違う、微笑みを携え凛とした"若葉"と名乗る少女が現れたのだ。
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