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見るに見兼ねて、若葉が口を開こうとした。だが、先に男が言葉を奪う。 「…私がそちらへ赴けば、会えるには会えるのか?」 増臣が控え目な声で、弱々しい瞳で若葉と癒月を交互にちらちらと見遣る。それに対し、二人は顔を見合わせぎこちなく頷く。 途端に、増臣の顔がぱぁっと明るくなる。 「そうかそうか!ならば良い!定期的にそちらへ行こう。そうだ、なんなら3人でその神を混ぜ小さな宴でもどうだ!」 「……」 唖然だ。二人は口をぽっかりと開き、目を豆にする。何を言っているんだこの満面笑みの狸爺は、と二人の目が訴える。ちなみに増臣はその間もきゃいきゃいと乙女の様にはしゃいでいた。 きっと、仙華がこの場にいたら言うだろう。 『ここ、普通は真面目な感動場面じゃないの?』 嗚呼、その図が安易に想像出来てしまった若葉は渋面する。なんだか失礼だが早くこの場から去りたくなってきた。 「まあ良い。良いのだ、お前が良いと言うのならば。だが近い内には必ず、その神とやらの面を拝みに行くぞ」 なにやら物騒な言葉が最後にちらりと聞こえたが無視してもいいのだろうか。二人は思った。 「さあ。行け、早う行け、お前を待っている者が居るのだろう。また(じき)に会えるさ。私はこの時を待って、お前を嫁がせないでいたのだぞ」 「父上…。この御恩は必ず…!立派な巫になってみせます!どうか、どうか御健(おすこ)やかに」 微笑み頷くだけの増臣。癒月はまたしても瞳に涙が滲み始めてしまっている。 そんな彼女を見遣り、そろそろ頃合いだろうかと思案した若葉は増臣へと視線を向ける。 「では頼んだぞ、若葉殿」 「必ずやお守り致します」 ──さあ、早く行きなさい 増臣に諭された若葉は癒月を立ち上がらせ、共に深く深く頭を下げる。癒月も決心がついたのか、父へと背を向けゆっくりと歩きだす。 彼女へ続き歩を進めた若葉が最後に、振り向き一瞥を寄こした先には、涙を零しながらも優しく微笑む、娘の成長を実感した増臣のの顔があったとな──。 「ああ、我が奥よ。そなたの娘はこんなにも立派になったぞ。冥界でどうか、あの娘を見守ってておくれ…」
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