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どことなく精悍な気を感じさせられるような少女だ。やがて徐々に面を上げる、門の向こうにいるその彼女。
腰辺りまでの癖一つ無い亜麻色の髪を背で一つに括り、前髪は綺麗に切り揃えられている。
翡翠色のくりりとした瞳を持ち、その左目下には一つの黒子が。
桃色でどこか不思議な形をした水干と緋袴に身を包んでいた。
そんな少女に入るよう促された女人は、静かに門を潜っていく。
彼女らは共に門を抜けると、其処には他の屋敷と変わらない池のある手入れが行き届いた庭が見えてきた。そのまま池の前を通り、階を通り濡れ縁へと上がらされる。
「では、今暫くのお待ちを」
そうして透渡殿を通り、案内された場は些か簡素な室だった。言葉を悪くすれば、質素。
何処かへ消えた少女をぼんやりと待つ間、そう思いながら女人は屋敷内を見渡していた。しかし次第にどこからか聞こえてくる鳥の声に、意識がうつらうつらとし始める。
此処は山奥だ。
辿り着くに女人の身では少々険しい道だったせいだろうか、そのぼんやりとした表情筋には草臥れた印象を持つ。
暫くし、衣服を引き摺る様な音とカチカチと何かが床板と擦れるような──蹄のような音が聞こえてきた。
女人が音の正体に首を傾げた瞬間、少女が顔を出した。
「お待たせ致しました」
──犬を連れて。
「………わんっ」
「えっ」
もう一度言おう。
犬を、連れてだ。
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