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「さあ、癒月様。仙華も此方へお立ち下さい。しっかりと踏ん張っているのですよ」
増臣と別れを告げた癒月を連れ立ち庭に出た若葉は、その場にいた仙華を回収し、少々開けた場に移動した。
「ありゃあ、またあれに乗るのかい…」
「こら、あれとか言わないの」
若葉の言われた通りに二人は指定された場所に立ち、足に力を入れる。否、渋面を醸し出した仙華に関しては、蹲り全身に力を入れているようだ。
それを横目で確認した若葉が空を仰ぎ、凛と透き通った声で一言だけ発する。
「碧綺」
すると、突然にして忽ち辺りの風が強まり、なにやら屋敷の方からがたがたと屋根の軋む音が聞こえてくる。
彼女達のまわりをびゅうびゅうと吹き荒れる風。
「な、なんですかこれっ…!」
「うわあ、来ちゃったよ…本当来るの早すぎる」
二人が風により砂埃が目や口に入らないよう、袖や手で顔を覆いながら呟く。癒月は驚いているが仙華は比較的落ち着いているようだ。
すると程なくして、途端に風が止む。
顔を覆っていた二人が、辺りをそろりと、おずおず見渡す。すると、若葉へと視界を定めた時。
彼女の前に大きな影が見えた。
「お帰りですか、主様」
其処には、青色のきらびやかな羽が印象的な大きい鳥が一羽、彼女の前で佇んでいた。
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