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突然と重なり合う唇の温かくも柔い感触。突然と近付いた顔。背を後ろから押された二人は何が起きたのか一瞬で理解した。 だが、理解すると同時に新たな感覚が体を包み込む。 男の透けていた筈の手足は向こう側が見えなくなり始めたのだ。それは即ち、透けていないということ。 「おやまあ、凄い回復力ですね。相性がそれだけ良いって事ですかねぇ、ふふっ」 『あっ、勿論霊力のですよ?』と己らの後ろからのほほんと発せられた若葉の声。だが後半に付け加えられた言葉は、からかいを含む色をしていた。 やがて、何方からともなく勢い良く顔を離す二人。だが、手はそのまま互いを強く包んでいた。離すまいと。強く、強く。 「破廉恥です!破廉恥です若葉様!」 「……」 一方は額から首まで紅く染め上げ、悲鳴に近い声をあげ、もう一方は魂が口から飛び出掛けている。そんな声を浴びせられた当の本人…否、若葉はどこ吹く風で微笑んだままだ。 「おや、でもそのお陰で御南巴乎神は力を戻したのですよ?」 寧ろ感謝しろといった感じが、その言葉には混じられていた。意外とこの少女、強気なところがあるようだ。 それを聞き、言葉に詰まる彼女。やがて男がはっとした顔をし、何故此処に居るのだと問う。魂は無事戻ったようだ。 「そこな姫様が貴方様の為に身を捧げ、(かんなぎ)となる為に送り届けたまでに御座います」 「……かん、な、ぎ…だと?」 「左様」 本来ならば盃を交わし、(うた)と共にきちんとした儀式を行い契約を結んでもらう予定だったのだ。 「けれど今の口吸いだけで、強い糸が結ばれたのを見まして。いやはや驚きです」 強い想いは時に、不思議な力を発するという事なのだろう。
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