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三者三様。 仙華はこれでもかと言う程に目を見開き、若葉は口をぽっかりと開け、癒月は純粋に良かったと喜んでいる。 だが、当の言い放った神は首を傾げ、知らなかったのかと呆れる視線を寄越し碧綺は何やら不穏な気を放っている。 皆それぞれ、違った反応を晒していた。 「……なに、え、君、何で教えてくれないの、えっ」 「いえ、私も今初めて知ったのよ…」 「…余計な事を…。矮小な獣姿の方が喰らい易かったと言うに…」 仙華と若葉が互いにどういう事だと言い合う中、この青い鳥だけは違う思考でいるようだ。 「否、少々語弊があった」 この場の空気を一点に纏めるかの如く、神が言い放つ。 「戻れるのは一時だけだ。それも丑の刻のみ」 その言葉を聞いた若葉達、癒月はまたしても呆気に取られる。慌てた様子のまま、どういう事だと仙華が詰めれば神は少々煩わしそうに顔を顰めた。 「丑一つになったら鏡を覗いてみろ。さすれば全て解ろうよ」 ただそれのみを伝えた神は、これ以上は説明出来る事はないと言う。 若葉はそれを聞き、一人顎に手を添え何やら思案していた。 「たったその時間だけかい…」 絶望。今の仙華の様子はその一言に尽きる。そんな彼を見遣り、傍にしゃがみ込み気の毒そうにその背を優しく擦ってやる癒月はやはり優しい女人だ。 「…わかりました。助言、忝のう御座います」 何やら考えに耽っていた若葉は、いつの間にか普段のにこやかな表情に戻り男に頭を下げた。 「…まあ、原因は知らぬが気を落とすな」 「はい。そちらも、どうか癒月様の事を宜しくお願い申し上げます」 仙華を慰めていた癒月は自分の話題が出た事に気付き顔をあげる。そんなよよよと泣いていた仙華は、彼女の優しい手付きに更に涙していたが彼女に伴って同じく面をあげる。 「宜しくされるのは私の様なのだがな。…もう、行くのか」 「ふふ。違いないですね。そろそろ日も落ちます、貴方様達もどうか御用心を」 「若葉様…」 恐らく、逢魔時にはその名の通り、魔の物共が跋扈し始める時間帯でもある故に、若葉はそれ等に当りたくない為避けようとしているのであろう。 そうして一礼をし、背を向けた若葉に潤んだ目を向け立ち上がる癒月。 「若葉様、此度は感謝しても仕切れない程に…。どうか、どうかお健やかにあるよう祈っております」 「おやおや。私は良いのです、それは己の神へと向けてやって下さい。」 「そうだよ、あと他人ばかりじゃなくて自分の事を大事にしなきゃだめだよ」 いつの間にやら涙の治まった仙華が、若葉の側へ寄り告げる。彼等はもう旅立つ。 それを察した碧綺が羽を広げ、若葉を包み持ち上げる。仙華は若葉の腕の中へ抱き抱えられた為にもう、この地へ足を下ろしているのは碧綺のみとなった。 そして、二人を乗せた碧綺がついに翼を大きく羽ばたかせ始める。 「若葉様っ!」 ──その時、癒月の大きな、翼の音にも負けない大きな声が若葉に向けられた。
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