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彼女の隣には、やや淡黄色のふわふわとした毛並みを持ち、耳と尾をピンと立たせた中型とも大型ともつかぬ、まあまあな大きさの犬が座っていた。どこからどう見ても立派な犬だ。 先程聞こえた蹄の音は、この犬の爪音だろう。 「お待たせして申し訳ない。ああ、この子は仙華(せんか)。毛色が水仙の花に似ていますでしょう?だから仙華。因みに男子(おのこ)です」 何というか、単純な名だ──と、女人はつい思ってしまった。この少女、どこか抜けているのか楽天的なのだろうか。そう思える程にほんわかとした空気を纏っている。 そんな空気とよく似た、柔らかくて肩の力が自然と抜けてしまうような笑みを少女は浮かべた。そして、彼女は口を開く。 「この子は私の相棒の様な子です。ちなみに私の事は調査屋でも若葉でも、お好きなように呼んで下さいな」 「…若葉…様、?」 「ああ、いや、その様に畏まらなくてもお好きなように。して、貴女様は?」 女人の向かい側。大人しくただじっと女人を見据える、仙華の隣に腰を落ち着けた少女はその淡黄色の背をゆるり、ゆるりと撫ぜながら訪ねた。 「あっ…!申し遅れまして、(わたくし)めは柳原(やぎわら)家の娘に。名を癒月(ゆづき)と」 「まあ。あの名家の姫君でございましたか。それなら私も存じております、以後よしなに」 慌てて笠を外し、頭を下げた女人──改め、癒月。 それに伴うようにしゃなりと三つ指を揃え、頭を垂れる若葉。 仙華は相変わらず癒月を見つめたままだ。 どうやらこの少女、実に礼儀正しいようだ。教養がきちんとされていたのだろう。 しかしこの屋敷を見る限り、然程身分は高そうでも無ければ、雑色や女房、侍女など誰一人とて見当たらない。 果たしてこの少女、貴族なのか否か。 「さて、柳原の姫様。自己紹介も済ませたところで、そろそろ本題に入りましょうか」 やがて居住まいを正した若葉が、相も変わらず微笑みを携えたまま話を切り出す。 はて、本題とはこれ如何に。 癒月は首を傾げる。 「──噂、を聞いて来たのでしょう?」 噂、とは。
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