第一部:見知らぬ同居人

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 売り言葉に買い言葉とでもいえばいいのだろう。俺はついに店の扉を開けた。  そこに立っていたのは、情報屋・アンヘルの偽名(俺の地区、独特の風習である。その仕事にあった偽名を名乗るのが常識だ。なので職の数だけ偽名が持てる。)を持つ男だ。前はアクイラの偽名で北区の刑事をしていたが、今は職と信頼を失い見る影もない。  派手な赤いコートに無精髭、ボサボサの黒髪、手には酒の入ったビン。働き手だった男がすっかりアルコール中毒の中年になっているのは誰もが知っている。  集金に来た今とて奴の息からはアルコールの強い匂いが鼻を突く、それに風呂には何日入っていないのだろう、きつい体臭がより一層俺を不快にさせてくれる。 「お前、俺の金を酒に使ったのか?」  アンヘルの持つ空のビンが気になり指摘すれば奴はふんと鼻を鳴らす。 「使う訳ねぇだろ。それとこれとは話が別だ。お前さんはここが中央区の良い物件の二階建ての館ってのは知ってんだろ? 価格もそれなりに察してる筈だ。なのに三ヶ月たった今でもほぼ踏み倒し状態。どういう事だ?」 「だから、依頼がなければ金が入ってこないんだ」  俺の言葉にアンヘルはわざとらしく肩を竦める。
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