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ここの通路は何でも屋が多く住まう場所であり、不良者は何か特殊な事情がない限りここでは眠る事が出来ない。翌朝目が覚めたら脳天に銃弾がめりこんでいるいるなんて事は誰だって避けたいものだ。
その中でコツコツと場に合わない音が響いた。
「貴下は『天使』ですか?」
向かい側から誰かが来る。声的には男だろう。しかし、現れたのは不思議な男だった。青いおかしなコートを着ている、まるでそれはドレスだ。白髪、髪と同じ色をした長いマフラー、赤ぶちの眼鏡、そして音の原因であるヒール。それは恐らく、女装なのだろうか。
「貴下は宙から来やがりましたか?」
「ちげぇよ」
しつこい質問にそう答えた。長い間はここで働いているが、このような奇妙な恰好の者は見た事がない。
「輝いています」
男はそう言いながら近寄ってわざわざ俺の手をとろうとするので、それを払いのける。
「触んな。俺はそういったサービスはしてねぇ。中央区の何でも屋だ。……お前は誰だ? 見かけない顔だな」
拒絶された男はショックを受ける事もなく相変わらず無表情のまま小さく首を傾げた。理解出来ていない、それだけが読み取れる情報だろう。
「中央区の新人だろうが、北区には行くなよ」
親切に声をかけてやったつもりだった。しかし、再度男の方を見ればその姿は既になかった。
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