第一部:見知らぬ同居人

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 俺は可能な限り速足で今回の依頼先へ向かった。  道中「あれを買ったのか?」「元々変だと思ったが、『そっち』だとは思わなかったぜ」などと言う浮浪者の言葉が気になったが、わざわざ絡みに行く必要はない。相手をするだけ無駄だ。  中央区と違い整備された場所、西区。  その中の一軒、中央区の住人から見れば立派な住まいがある。  昼間だからかあの光はもう見る事はない。やはり幽霊は夜に現れる者なのだろうかと庭に入ろうとしてやめた。庭の前に何かが転がっている。  周囲を警戒しながらそれに近づけば、そこに転がっていたのは犬の死骸だった。しかも、ただの死骸ではない。腹を一太刀。皮も肉もすっぱり切れている。  臓器が周囲に転がっているのは、おそらくカラスにでも啄まれたのだろう。痛々しいその姿は、どう考えても今回の依頼と関係しているだろう。  不審に思ったのだろう隣の住人が玄関の扉を少しだけ開けて、俺の様子を観察している。もちろん、わざわざこれを見逃すわけにもいかないだろう。 「俺は中央区の何でも屋だ。依頼を受けて来たんだ。ここで何か変わった事は? あー……、なんだ。その『幽霊事件』なんだが……」
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