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第一部:見知らぬ同居人
ここは豊かな所だ。
衣食住は事欠かない、清潔さを保ち、道路に寝転がる者もいない。誰もが信仰心厚く今日も神に祈りを捧げ穏やかな日々を過ごしている。
だから、だからこそ、呼ばなければならない。
なぜならそれが牧師の役目であり、彼らの務めだからだ。
「そんなに信仰心があるのに、どうして天使様を見たことがないのかしら」
ある日、見知らぬ女がそう言った。
少女のような姿だというのに、その髪はまるで老婆のような白髪で、桃色の瞳にはうっすら星のような文様が見えた。最初こそ魔女か悪魔かと思われたが、彼女はこれ以上ないくらいに親切だった。
彼女の持つ知識は凄まじいものであり、その助言は益々この区画を潤した。
「何故そのように沢山の知識を持っているのだ?」
「私は一度、天使様に会ったのよ。貴方も会ってみたくはなくって?」
胡散臭い話だが、しかし信じるに値する証拠を持っていた。だからこそ、呼ばなければならないと思った。
「天使様は全てを豊かには出来ないけれど、考えを変えてくれるのだわ。それって重要なことじゃなくって?」
女にそう言われて「確かに」と思う。ここは豊かだが、心は貧しい。
生活が豊かになった為に、人々は他の土地の人間をバカにする節があった。よそ者が来ないように区画にくる際には重たい税をとるべきだと、盗人は絶対に許されない。北区以外の区画に住む人間こそが犯罪を犯す、とそのような偏見も出てきてしまった。
これからのよりよい生活のため、そして汚れきった精神浄化のため。
心の底から善人というのは片手で数える程もいないだろう。だからこそ、ここに『使い』を呼ばなければならない。
たとえ、それがいくつか代償を欲するとしても。
しがない牧師は覚悟を決めて立ち上がり、そして少女の手をとった。
少女は微笑む、瞳に映る星の文様が鈍く光った。
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