第一部:見知らぬ同居人

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 始まりは不思議なことからだ。身体中の痛みで俺は目を覚ました。  まず視界に入ったのはわりと清潔な床だ。いつの間に床で眠ったのだろうと思いながら俺は起き上がる。違和感を抱き周囲を見渡す。水色の壁紙、たった一つの椅子と机、無駄な物は一切ない。俺の家ではない。  そう、確か。俺は依頼を受けてこの家に来た。だから、ここは俺の事務所でも情報屋のアンヘルの部屋でもない。人が暮らしていると情報は入手しているが、この部屋を見る限り生活が感じられない。ダイニングにしては簡素すぎる。  小さなカウンターには幾つか置物があるだけで他は徹底的に整理整頓されている。  俺は床に座ったまま、何があったのか思い出すことにした。  十年と少し前、北区で天使降臨の儀式が執り行われた。 『天使』と言っても他者が思い浮かべるような美しく神々しい存在ではない。北区に降臨したのは、口にするのも忌まわしい(そら)からの来訪者である。  天からの使い、という事で天使と呼称している『それ』は、見るだけでなく光を浴びるだけでも人間にとって有害だった。  その光を浴びた者は一瞬にして正気を失った。
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