0人が本棚に入れています
本棚に追加
午後三時、誰にも見つからないようにこっそりと扉を探す。この時に大切なのは、いかにも別の世界に繋がりそうな扉だということだ。一度見つけてしまえばまたそれを使えばいい。だが、人目につかない、そんな扉があるところを探すのは容易ではない。
どうにか扉を見つけたら、ドアノブに手をかけて魔法の呪文を唱えながら扉を開く。そうすれば、優しい世界が待っている。そこでは誰もが現実を忘れて自由に過ごす。いられるのは午前三時まで。
午後三時から午前三時までの限られた時間だけ、扉を探して呪文を知っている人間だけが行ける不思議な世界。こことは違う、もう一つの世界。
もう一つの世界のことは誰にも話してはいけない。もしも話してしまったら、二度と優しい世界は受け入れてくれないだろう。だから誰しもが口を噤む。
たとえ扉のことやもう一つの世界があることを知っていても、魔法の呪文までは分からないことが多い。そうでなければ秘密は秘密ではなくなってしまうのだから。
「今日のおやつはなあに?」
今日も呪文を唱えて扉を開ける若者が一人。
もう一つの世界は彼を優しく受け入れた。
最初のコメントを投稿しよう!