家族の最期

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「珠理、最近勉強の方はどうだ?来年は中学生なんだから、しっかりしないとダメだぞ」 不機嫌な顔でコーヒーを啜っていた私に、父が話し掛けてくる。うるさい、あんたみたいなのが親づらするな。本音を噛み砕き、大丈夫だよと答える。怒らない事、これが最後のお茶会のルールだった。弟の為に、私と母は我慢してこんな男とお茶してる。おかげで弟はご機嫌だった。大好きなパパが隣に居て、大好きなパンケーキが目の前にある。クリームを口いっぱいに付けて、ニコニコ笑っている。付いてるぞと隣の男に口を拭ってもらうと、パパ大好きと元気良く言った。もうパパじゃなくなるけどなと、私は心の中で毒づいた。 珠理も何か食べなさいとメニューを渡されて、私は困らせてやろうと1番高いメニューを探した。5万円のパフェを見付けたので、これにしようと思ったら、そのパフェは15人前の巨大パフェだったので止めた。ささやかな仕返しも出来ないなんてと、私は唇を噛んだ。特に食べたい物はないからと、メニューを男に返すと、何故か悲しげな顔をされた。 ふと隣に座っている母を見ると、無理矢理作った笑顔を顔に張り付けたまま、微動だにしていなかった。自分達を裏切った男とのお茶会だしね。辛いよね。弟よ、早く食べ終わってくれ。弟の為のお茶会だけど、母の心中を思い、内心早く!早く!と繰り返していた。私もこの男と長々と一緒に居たくない。 ふと気付くと私の目の前に、プリンが置かれていた。お前も俺の子だし、弟にだけご馳走するのは気が引けるから、食えよと男。仕方なく一口食べる。程よく甘い美味しいプリンだけど、正直今ここで食べたくはなかった。その間も母は、笑顔を貼り付け固まっている。目の前にある手づかずのコーヒーはすっかり冷めてしまっている。 ようやく弟がパンケーキを食べ終わったので、ホッとして席を立とうとすると、馬鹿な弟がこんな事を言い出した。夕御飯もここで食べたいと。笑ったのは男だけ、私と母は顔をしかめた。ああ、これ少しでもパパとの最後の時間を引き伸ばしたいんだなと思った。私の中ではもう他人の男だけど、弟にとってはまだパパなんだ。 時刻は3時45分。ナポリタンを4つ頼み、今度は早すぎる家族最後の夕御飯が始まった。
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