家族の最期

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運ばれてきたブラックコーヒーは、いつもより余計に苦かった。甘いコーヒーだけでなく、ブラックも飲める様になる為にいつも特訓している。空気は重い。状況がよく分かっていない弟だけが、キャッキャとはしゃいでいる。 多田宝助は私達の父で、最低な男だった。 よそにも女と子供が居る事を知った時、母は情けないと泣いた。父を殴った母を見たのは、それが初めてだった。それを知った時、私は父を気持ち悪く思った。私達の他にも家族が居たなんて。知らない子供を可愛がったその手で、弟を可愛いと撫でてたの?知らない女とキスをしたその口で、母ともキスをしていたの?そう思った時、嫌悪感しか父に持てない自分に気が付いた。もう、一緒の家にも居たくない。母も一緒の気持ちだった。だけど、弟だけは違った。弟は父が大好きで、凄くなついていた。新聞を読む父の背によく張り付いていたし、一緒におもちゃで遊ぶ姿をよく見ていた。一緒にミニカーを走らせて遊ぶ、良いお父さんだと思っていたのに、父にはもう1人、弟と同じ位の息子が居た。 それは数日前、不倫相手が息子を連れて訪ねてきた事から発覚した。やっぱり未婚の母は辛いから、結婚して欲しいと頭を下げる不倫相手を睨み付け、母は父を殴った。宝助さんに何するの!と間に入る不倫相手、父ちゃんを苛めるな!と叫ぶ弟と相手の子、その光景に引く私。結局、私の家族は壊れる事になった。やっと宝助さんを独り占め出来ると笑った不倫相手の顔を、私は一生忘れないだろう。納得いってないのは弟だけだった。もうお父さんとは一緒に暮らせないよと、何度言っても理解してくれなかった。弟だけ父に引き取ってもらう事も考えたけど、あっちにも子供が居る。弟はきっと、不倫相手とその子供の厄介者にしかならないだろう。 離婚が決まった時、父は言った。 家族で最後のお茶会をしよう。宝太に最後の思い出を作ってやろうと。 そして午後3時。私達家族の最後のお茶会が始まる。
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