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それに……悠太は経験者だ。あまり思いだしたくはないが、悠太は高校時代自分と付きあう前、べつの恋人がいた。そのときの悠太は……どちらかというと攻められるタイプで。
もし悠太とそういう雰囲気になったとき、どっちがどっちを攻めることになるのかわからない。
我ながらくだらないことを考えているとは思うが、真剣に悩んでいるのだ。
最近こればかり考えてしまっている。
横からはすでに寝息が聞こえる。
悠太はどうしたい? それが聞けたらどれだけ楽か。
「……おやすみ」
考えるのはやめて寝よう。無理やり思考を停止させ、きゅっと目をかたく閉じた。
****
ピリリ、とけたたましく音を鳴らす目覚まし時計。毛布の中から手をぬるっと出して、それを叩いて音を止める。
しばらく毛布に包まっていたが、「このまま寝てたらやばい」と本能的に察知して勢いよく起きあがった。
時刻は十時をちょっと過ぎたところ。今日は講義がない日とはいえ、少しばかり寝すぎてしまった。
バイトは十三時から入れてあるので、まだ時間に余裕はある。
リビングにいくとテーブルの上にメモが置いてあった。
「朝ごはんは昨日の残り温めて食べてね」
そう記されている。
「そっか、悠太は一限からか」
こうして悠太からメモが残されているのは珍しくない。よくあることだった。
毎回メモを捨てるのが惜しくて、いづきはそれを専用のファイルに綴じている。
ふあっと大きなあくびをして、まずは洗面所で顔を洗うことにした。
****
「グッドモーニング! 平沢くん」
一限目の講義が終わり、二限目が行われる教室に向かってる途中で雨宮と出くわした。
この前と違う講義ではあるが、今から受ける講義も雨宮とかぶっているということを今思いだす。
やたらテンションの高い雨宮を見事にスルーして、さっさと教室に入っていく。
「ちょっと、無視はよくないんじゃない?」
「はいはい、おはようおはよう。ってまた隣……」
「あら、感謝してほしいのだけれど」
ちゃっかりと悠太の隣に座った雨宮は、目だけをべつのほうへ向けた。その視線の先を追えばこちらを見てひそひそ話している女子生徒ら数人。
雨宮がいなかったら隣に来ていただろう。そこを突かれるとなにも言いかえせない。
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