ちょっと長いプロローグ

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「ところで平沢くん、少し気になることがあるのよ」 「なに? もう講義始まるんだけど」 「それじゃあ終わったら話しましょ」 勝手に決めやがって。 たしか三限目の講義も雨宮と同じだったはず。これはもう逃げられないだろう。雨宮の言うとおりにことが運ぶのは癪だが仕方ない。 どうせくだらない話だ、聞きながせばいい。 昼休み。予想していたとはいえ食堂までついてきた雨宮に嫌気がさした。口には出さないけれど。 雨宮はお弁当でも学食でもなく、菓子パンを頬張っている。 「平沢くんは自分でお弁当を作ってるの?」 「そうだけど」 「意外と家庭的なのね」 余計なお世話である。早くこの状況から抜けだしたい気持ちでいっぱいだった。講義だけでなく昼ごはんまで一緒に過ごしていたらありもしない噂が立ってしまいそうだ。その噂がいづきの耳に入ったら大変なことになる。 「で? 僕に聞きたいことがあるんじゃないの」 「そうそう! これはただの好奇心なのだけれど気になって気になって夜しか眠れないのよ」 「それってなんの問題もないよね……」 「まあまあまあまあ」 手のひらを見せ前後に軽く揺らしながらなだめる動作をする雨宮。そのあと「あのね」と小さな声で話を切りだす。それは注意して聞かないと聞こえないほどの声量だ。 「平沢くんと日下部くん、どこまで進んでるの?」 「……はあ?」 悠太に鋭い目つきで睨まれた雨宮は、「あら怖い顔」そうぼそっと呟いた。 そりゃあ怖い顔にもなるさ。なぜそんなこと雨宮に話さなければならないのか。本当にくだらないことだった。 悠太はなにも言わずに食事を再開する。 「踏みいったことを聞いて申し訳ないとは思うわ。でも気になるじゃない。周りにあなたたちのような人がいないのだもの」 「どんな理由であれこういうことは人に話さないようにしてるから」 「はあ……お堅いわねえ。今時普通よ? 女子トークくらい」 「誰が女子だ」 そのあとも雨宮はくどくどとなにか話していたが、もうすでに悠太の耳には届いていなかった。 雨宮め、よりによって人が悩んでいることを。 約一年。手を繋いだり頬や額にキスすることはあるが、それ以上は今のところない。 独占欲の強いいづきが迫ってきたりしないのは、いづきがそういうことに慣れていないからだろう。 なら自分からいけばいいとは思うのだが……。
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