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バイトの子があがり、店を猫田と二人で回すことになった。この時間帯はあまり忙しくないので、二人体制が多い。
いづきは煙草を買いにきた男性客のレジを打ち、それを猫田がミスをしていないか横で見ている。
対応が終わり、ちらりと猫田のほうを見た。
「なんだよ」と猫田は不機嫌そうな面を見せている。ここはちょっと強気で絡んでみることにした。
「あの、そんなにまじまじ見られると逆にやりにくいんですけど」
「ああ? お前がミスしたらめんどくせえから見てんだろうが」
「め、めちゃくちゃ口悪いですね」
「なっ……」
思いのほか口が悪かったので、うっかり口に出してしまった。どういう感情なのか、猫田は口ごもって気まずそうにしている。
いづきは猫田の顔を覗きこんだ。すると猫田は後ずさる。まるで人にびっくりしている猫そのものだ。
「こ、こういう口調になっちまうんだよ。他意はねえよ」
「へえ……」
「こっち見んな!」
「はは、なんか急に子供っぽくなりましたね」
なんて言ってみると、猫田は顔を真っ赤にさせて「うるせえ!」と一言。口は悪いが性格が悪いという感じではない……ように見える。
一旦会話を終わらせていづきは清掃を再開しようとしたが、猫田に「おい」と呼びとめられる。
「なんですか?」
「……き、昨日はありがとな! おかげで仕事捗ったし今日は早く帰れそうだ」
「え、あ……」
「そんだけだ!」
礼を言うのがそんなに恥ずかしかったのか、顔を赤くしたまま逃げるように事務所の中へ入ってしまった。
なんというか、意外と扱いやすいかもしれない。
****
「たっだいまー!」
いづきが帰宅したのは十九時過ぎ。自分より先に帰宅していた悠太に、元気よく声をかける。
リビングでテレビ番組を見ていた悠太は、立ちあがっていづきの元へと歩みよった。
「おかえり」
「ゆーうーた!」
悠太に飛びついてぎゅっと抱きしめる。よしよしと頭を撫でてもらった。疲れが一気に吹きとんだ……気がした。
その後、夜ご飯を食べ大学のレポートに取りかかったり適当にごろごろしたりお風呂に入ったり、そうしているうちに就寝時間がやってきた。
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