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第1章
今日は二人とも一限目から講義がある日だった。
朝の七時前には起床して、朝食をとり各自支度を始める。
朝は苦手だったが目を覚ましてすぐ好きな人が目の前にいる幸せなこの気持ちは、きっと薄れることはないだろう。この小さな幸せをいづきは噛みしめていた。
未だに例のことで悩んでいるが、喧嘩もなく平和な日々を送っている。
「はあ……眠い」
「ほら、急がないと」
全ての支度を終えテーブルに突っぷしていると、襟をくいっと軽く引っぱられた。残念ながらゆっくりしている時間はないらしい。
同じ時間に通学するの日はいつも高校時代のことを思いだす。
もともと実家が隣同士で、付きあう前はたまたま家の前で会ったら一緒に登校していた。
付きあってからは時間を合わせて登校したっけ。
あの頃を思いだすと自然と笑みがこぼれる。
朝の電車は人が多くてもみくちゃにされてしまうけど、悠太が目の前にいればこんなのなんてことはない。
満員電車でこれだけ密着していると思いきり抱きしめたくなるが、そっと悠太の袖を握りしめる。今はこれで我慢しよう。
がたんと電車が揺れ、バランスを崩してしまう。体が後ろに倒れそうになったところで、悠太に腰を支えられる。
悠太の大きい手が腰に触れていて、そこから温もりを感じた。
「大丈夫?」
触れられたところが熱を持ったように、だんだんと熱くなっていく。鼓動が速くなり頭がぼーっとする。そのせいで悠太の言葉に反応するのが遅くなってしまった。
「あ、ありがと」
やっと言葉が出てきた。もしかしたら上ずっていて変な声になっていたかも。周りにたくさん人がいるのに恥ずかしい。
真っ赤になった顔を隠すように、いづきは俯いた。
****
一時はどうなることかと思ったが、なんとか理性を保つことができたいづき。
無事に大学についたが、講義まであと二十分時間がある。
なんだ、あまり急がなくてもよかったんじゃないか。そう思いながらも、まだ少し悠太と一緒にいられるということに喜びを感じた。といっても移動時間があるし十分程度だけど。
二人は中庭のベンチに座り、時間を潰すことにした。
「あ……」
同じ講義を受けている女の子のグループが、こちらを見ていることに気がついた。いいや、よく見るとこちらと言うより悠太に熱い視線を送っているではないか。
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