第1章

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恋人がかっこいいと言われるのは嬉しいが、モテるのはどうにかしてもらいたい。悠太だから心配しなくていいというのは頭ではわかっているけれど、やはり複雑な気持ちになってしまう。 悠太は自分の恋人なんだと、みんなの前で言ってやりたくなる。 「いづき」 「ふぁい!」 突然ぷにっと頬を軽くつままれ、変な声が出てしまった。驚いているともう片方の頬をつままれる。 なにか怒らせてしまったのかと思い、不安そうに悠太を見あげる。 「笑って。せっかく一緒にいるんだから」 「えっ、わ、笑ってなかった?」 「全然。怒ってるのかと思った」 その言葉に慌てて「怒ってないよ!」と訂正する。すると悠太は小さく笑って手を離してくれた。 すぐに顔に出てしまう癖をどうにかしたい。いづきは自分の顔をぺたぺた触りながら、そう思った。 「二人ともおはよう。この時間に会うなんて珍しいわね」 ふわりとシャンプーの香りが舞っていると思ったら、目の前に雨宮が立っていた。 いづきたちは特になにも考えず返事をしたが、よくよく考えてみればたしかにこの時間に雨宮と会うのは珍しい気がする。 「雨宮さんって一限から講義とってる日もあるんだ」 「ああ、違うの。講義は二限からなんだけど暇だったから早く来ただけよ」 「へえ……変わってるね」 自分なら暇だったとしても早くに大学には来ないだろう。来たところですることもないし。……いや、ないこともない。レポートやら復習やら雨宮なら真面目にやっていそうだ。 「それに二人が揃ってるところも見たかったし」 「え?」 「ほんと、朝から見せつけてくれるわね」 先ほどのやりとりを見られていたらしい。いづきは恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせ、あわあわと反応に困っている。そのわかりやすい反応に雨宮は面白いものでも見ているかのように、ふふっと笑った。 悠太は大きくため息をつく。 「あんまりからかわないでもらえる?」 「あら、どうして? 日下部くんかわいいじゃない」 「それは認めるけど雨宮さんにいじられてるとこ見ると無性に腹が立つんだよね」 表情ひとつ変えずにそんなことを言ってくる悠太に対し、雨宮は唇を尖らせて「失礼ね」と吐きすてるように言った。 しかし悠太が失礼なのは今に始まったことではないので、これ以上突っかかる真似はしなかった。
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