第1章

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「ていうかあなたたち、もう教室に行ったほうがいいんじゃない?」 「あ、ああ。もうそんな時間か」 雨宮に言われ時計を確認する。雨宮の言ったとおり、そろそろ教室に向かわないとまずそうだ。 いづきは立ちあがって、砂埃がついているかもしれないお尻を手でぱんぱんと払った。 「平沢くん、次の講義って法社会学?」 「そうだけど。よく知ってるね」 「私も取ればよかったな。こっそり講義に参加しちゃおうかしら」 にやにやと笑いながら、悠太の顔を覗きこむ。 悠太は眉をひそめると雨宮の頭に手を当てて、軽くだが押しのけた。近づくなとでも言うように。 「選択してない講義を受けるのはだめなことくらい知ってるでしょ」 「当たり前よ。ほんの冗談だったのになにを怒ってるのかしら。ね、日下部くん」 こちらを見ていたいづきに同意を求める雨宮。ぼーっとしていたのか、いづきはぴくりと肩を揺らすと「あ、ああ」と微妙な反応を見せた。 その妙な様子から悠太は察してしまう。 「ほら、いづき。もう行くよ。じゃあね雨宮さん」 いづきの手を取り、足早に雨宮の前を去る。 その場に取りのこされた雨宮は「?」と小さく首を傾げた。 いづきの手を引いて歩いていると、ぱっと手を離される。振りはらわれたと言ってもいいだろう。 やっぱりか。ある程度覚悟していた悠太は振りかえっていづきを視線を移した。 「いづき、大丈夫?」 多分大丈夫ではない。きっと嫉妬しているに違いない。迂闊だった。油断していたとはいえ、いづきの前で女の子に触れるなんて。 いづきは俯いたままこちらを見ようともしない。 「さっきのは」 「悠太のばか!」 悠太の言いわけなど聞きたくなかったのか、それだけ言っていづきは走りさってしまった。 もちろん追いかけたい気持ちはあったが、時間がそれを許さない。単位を落とすわけにもいかないのだ。いづきもこのまま教室に向かうはず。 「……」 ばかと言われてしまった。ちくちくと胸が痛む。 反省しなくては。 悠太はどうしようもない感情をうちから吐きだすように、大きなため息をついた。
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