759人が本棚に入れています
本棚に追加
エレベーターが二階でとまった。どうやら他に生徒が乗ってくるらしい。まだ余裕はあるが人で密集するのは勘弁してもらいたい。
エレベーターの扉が開いて、二人乗りこんできた。その中の一人、女子生徒と目が合った。その女子生徒は「あら」と悠太に微笑みかける。
「おはよう、平沢くん」
ちゃっかり悠太の隣に立って、笑顔で挨拶をしてくる女子生徒。悠太は短く「どうも」とだけ返した。
女子生徒の名前は雨宮莉子。悠太といづきの二人とは高校が同じだった。女郎花の腰まで伸びた長い髪を揺らして、大きな丸い目を悠太に向ける。
「相変わらず冷たい人なのね」
「雨宮さんに対して温かくなることはないだろうね」
「ふーん」
目的地の四階について、悠太はエレベーターを降りた。ちらりと後ろを見ると雨宮も同様だった。
それも仕方ない。今から受ける講義は雨宮も受講しているものだから。
どういう偶然か雨宮とはたまたま大学がかぶり、たまたま学部もかぶったというわけだ。本人は「なにも意図していない」と言っている。これは嘘ではないだろう。
なぜなら高校時代、悠太と雨宮は仲がいいわけじゃなかった。むしろお互いを嫌いあっていたと言っても過言ではない。
そんな相手と同じ学部になりたいと思うわけがない。
さらに言えばもうひとつ嘘ではないと言いきれる理由があるのだが……今そのことについて触れるべきではないだろう。
「ひとつ不思議に思うことがあるんだけど」
教室について適当な席につき、隣に座ってくる雨宮に対してそう口を開いた。「なにかしら」と雨宮は一言。
「なんで毎回僕の隣に座るのかと」
「あら、だめなの?」
首を傾げて上目遣いでこちらを見つめてくる雨宮。一般男性ならその顔を向けられたらイチコロだっただろう。わざとらしい雨宮の表情に苛立ちを覚えた。
「べつに深い意味はないわ。ただあなたと一緒に行動していれば、変な男に声をかけられなくて済むのよ。あなただってそうじゃない?」
確かに雨宮の顔は整っているし、男からの人気もある。前に声をかけられているところを目撃した。
自分はその魔除けとして利用されているらしい。ただ雨宮の言うとおり、雨宮と行動していると変に女子生徒から声をかけられることもない。最初の頃、話したこともない女子生徒に隣に座られたことがあった。
そのことを考えると、これはある意味助けられている……のか?
最初のコメントを投稿しよう!