759人が本棚に入れています
本棚に追加
しかしこんなところをいづきに見られでもしたら大変だ。学部が違うから見られることはないかもしれないが。
少し不安だがいづきは高校二年のとき雨宮と同じクラスで一緒に学級委員もしていた仲だから、嫉妬をするとは考えにくいしきっと大丈夫だろう。
講義が始まる五分前に、机に置いていたスマホの画面がぱっと光った。なにやらメッセージが届いたらしい。誰からのメッセージかは言うまでもない。
毎回この時間にいづきからメッセージが送られてくる。だから講義が始まるぎりぎりになってもスマホを机に置いたままにしているのだ。
特に重要なメッセージではない。ただのスタンプだけというのもよくある。
それでもこれは隣にいる雨宮と話をするより、有意義な時間だと思えた。
「毎回思うのだけれど、あなたスマホ見ながらにやにやしてるの相当やばいと思うわよ」
「ああ、そんな顔してた?」
「普段笑ったりしないから余計に目立つのよね。どうせ日下部くんとやりとりしてるんでしょう」
大学に入学してすぐ、一度だけ三人で食事をした。といってもご飯屋さんとかではなく、大学の食堂でだけれど。そのときに雨宮にいづきとの関係を見抜かれてしまった。
小さな声で「あなたたち付きあってるわね」と言われたのを今でも鮮明に覚えている。雨宮は高校時代にすでに勘づいていたらしいが、このときに確信に変わったのだとか。
適当にごまかしてやりすごそうと思っていたのだが、いづきがすぐに顔を真っ赤にしてしまったので隠せるものも隠せなかった。
「ほんと、あなたにそんな顔をさせる日下部くんがすごいわ。ていうか日下部くんはあなたのどこがそんなにいいのかしらね」
「ひどい言い様だね」
「気分を害したなら謝るわ」
べつに害してはいない。なんとでも言うがいいさ。雨宮との会話をさくっと切りあげて、いづきにメッセージを打つ。
送信したあとスマホはしっかりと鞄にしまった。講義には集中しないといけないから。高校時代とは違ってさぼるとすぐ置いてけぼりになってしまう。
頭を切りかえようとしてみたがやはりどこかでいづきのことを考えている自分がいて、いづきの顔が何度か脳裏をよぎった。
最初のコメントを投稿しよう!