ちょっと長いプロローグ

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三限の講義が終わり、大学から徒歩十五分の距離にあるコンビニエンスストアへやってきたいづき。ここがいづきのバイト先である。 事務所の中に入り自分専用のロッカーを漁る。インナーの上から制服を着て、壁にかけられている鏡で身だしなみをチェックする。 どこからどう見てもコンビニ店員だな、とどうでもいいことを考えていた。 すると、事務所にひとりの男が入ってきた。その人物を見ていづきは「げっ」と思ってしまったが、慌てて取りつくろって元気よく挨拶することにした。 「おはようございます! 店長!」 そう、その人物というのはここの店長。ものすごく目つきが悪くて髪の毛もつんつんしている……が、髪は甘いミルクティーのような色味をしていて妙なギャップを感じさせる男だ。 制服についてある名札には「猫田」と表記されていた。名前と髪の色だけは随分とかわいらしいものだ。 「よう新人」 確かに働きはじめて一ヶ月も経っていないが、名前で呼んでくれたっていいのに。 目つきも悪ければ口も悪いし、いつも怒ってるみたいに不愛想だし。 いづきは猫田が苦手だった。 「なに睨んでんだよ」 「べ、べつになにも! レジ行ってきます!」 「ああ、待て。まだ一人でやんな」 どうやら今レジにいる従業員はこの時間で退勤するらしい。そうなるとレジにいるのはいづき一人だけになる。入りたての新人を一人でレジに立たせたくないのか、猫田が後ろからついてきた。 一人でレジ打ちは不安ではあるが、隣にいられても変に緊張するし気まずいから困る。だがそれでミスをしても怖いので断るわけにはいかなかった。 とはいえこの時間帯は比較的落ちついているようで、レジが混んだりすることはなかった。 やることといえば店内をひたすら清掃するだけ。 猫田は「客来たら行くから」とだけ言って事務所に戻っていった。 ずっと一緒にいるよりは気が楽だ。 それにしても店長にここまで苦手意識を抱いていたら今後しんどくなる一方な気がする。 なんとかこの状況を打破したいけれど……。 はあ、と深いため息をついた。
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