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背の低い丸テーブルにハヤシライスが入ったお皿が二人分置かれる。
いづきはきらきらと目を輝かせながら、両手を合わせて「いただきます!」と一言。悠太もそれにつづいた。
「……おいしー! めちゃくちゃおいしいよ」
「ありがとう」
「悠太はなんでも作れるんだなあ」
今の時代ネットで調べればレシピなんてごまんとあるが、それでも料理を作れるのはすごい。多分自分はうまくできないだろう。そう思うからこそ料理を作れる悠太を尊敬した。
悠太も元々料理をするほうではなかったが、いづきと暮らすことになってからネットのレシピや料理雑誌を見たりして勉強をしていた。
「そうだ、今度一緒になにか作ろう」
「いいよ。なににする?」
「……パンとか」
「それはまた難しいのを選んだね……」
いつもこんな風になんてことのない平和なやりとりをして、順番に風呂に入り就寝の時間を迎える。
悠太より先に風呂からあがって髪を乾かしたあと、寝室に向かいシングルベッドへダイブする。
二人で寝るにはほんのちょっと狭いベッド。それでも相手が悠太だからそんなことは関係なくて。むしろ密着できるから無問題なわけで。
枕からほんのり香る悠太のにおい。
今ものすごく幸せだ。
幸せ……なんだけど。
ひとつだけ、いづきには悩みがあった。
考えごとをしているうちに眠ってしまっていたらしい。ある物音で目が覚めた。
「ごめん、起こしちゃって」
悠太が毛布にもぐりこんできた音だったようだ。
いづきは眠たげな目をこすり「ううん」と首を横に振る。
悠太はそんないづきの頬を撫で、むにっと軽くつまむ。
「なんだよー」
「お餅みたい。おやすみ、いづき」
「ん」
ちゅっと額にキスをされる。くすぐったいのと嬉しいのとで、いづきの表情はゆるゆるだ。
「おやすみ」そう返事をして悠太に寄りそう。
そう、悩みというのはこれだ。
たしかに額にキスは嬉しい。それはもう最高に嬉しい。
ただ自分たちは付きあって約一年も経つというのに、一度も唇同士をくっつけるという行為をしたことがなかった。もちろんそれ以上のことも。
不安なわけではない。愛されていることは十分伝わっている。
でも……物足りないのだ。唇にキスがしたい。あわよくばそれ以上のことだって。
そんなにしたいなら自分から言えばいいし、すればいいと思われるかもしれない。
しかしいづきの恋愛経験値はないに等しい。リードの仕方もわからないし、ぶっちゃけてしまうと恥ずかしくて堪らないのだ。
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