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ちょっと長いプロローグ
高校よりもずっと広い教室に、皺だらけの教授の聴きとりにくい声と生徒らがペンを走らせる音が響く。黒板ではなくプロジェクタースクリーンで進められていく講義は、まだ慣れそうにない。うっかりペンを動かす手が止まってしまった。
スクリーンをじーっと凝視しているこの男の名前は日下部いづき。政治経済学部の経済学科に通う入学してから一カ月経過したばかりの大学一年生だ。
癖のないさらっとした蒼色の髪、てっぺんにぴょんと伸びたあほ毛が特徴的。さらに色白で目が大きく、小柄ときたものだから「男らしい」という言葉からかけ離れていた。
ちらっと時計を見やる。あと五分で九十分もする長い講義が終わる。ここを乗りこえたら待ちに待った昼休み。
ものすごくお腹が空いているわけではない。べつの理由があって昼休みが待ちどおしいのだ。それはもう、ついついにやけてしまうほど。
五分が経過し、鈍くどこか古臭さを感じさせるチャイムの音が鳴った。それと同時に教授はやっと終わったと言わんばかりに黙って片づけを始めだした。そうすると生徒たちも机の上に出していたものを鞄にしまい、それぞれ好きなように行動を開始する。
それはいづきも同じ。ノートや筆箱を鞄に突っこんで席を立つと、足早に教室を後にした。
目指す場所は決まっている。軽快な足取りで階段を駆けおりて、一階にある食堂へと向かう。
向かっている途中人にぶつからないよう、ちょこちょこと器用に動きながら。
二限目が終了した今、食堂は生徒で溢れかえっていた。教室よりもずっと広い間取りではあるが、人が多くて窮屈に思える。
みんな食堂で販売しているカレーや麺類、用意してきたお弁当を広げて個々で昼食を楽しんでいた。
その中でいづきはある人物を捜す。これだけ人がいると捜すのも困難だな、と思っていると手に持っていたスマホがぶぶっと震えた。
見れば今まさに捜している相手からのメッセージ。「壁際にいるよー」とだけ。
壁際なんてありすぎてどこだかわかんないよ。思わずぷっと吹きだした。
ヒントはそれしかなかったので仕方なく壁際に絞って捜すことに。
「あ!」
意外とあっさり見つかった。相手が座っている席へと小走りで近づいていく。
それに気づいた相手は軽く片手をあげていづきを迎えいれた。
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