一話 依頼人:一条レイナ

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「……は~」 モップの上の組んだ手に、顎を載せる。 初めて此処に来た日から3日。 結局俺がやらされているのは、本当に聞いていた通り掃除中心の雑用だけで、通報しなきゃいけない様なヤバい仕事は今の所させられていない。そして俺は人を造ると言う事、彼等の仕事のその具体的な内容は何一つ聞かせて貰えなかった。何でも「資格を持つ者以外に口外してはならない決まりなんだ。破れば僕も君も国に消されると思うよ」(by夜乙さん)らしい。どうやら犯罪どころか、国家もこっそりとだけど認めている仕事だそうで。 (……そういえば昔、そんな噂聞いたな…) まだ俺が生まれる数十年前、この国は、人口が増え過ぎた為に、年齢や性別、健康状態を問わず本人が相応の手続きを踏めば安楽死を認可する、という法律を出した。そうで無い頃から何万人と、痛みを伴ってでも自殺をする人間が居た位だ。狙い通りに人口は激減した。 ――だけど、今度は減り過ぎてしまった。 だからそれを補うべく、政府は人間を幾人も人工的に造って、社会に紛れ込ませた。……と言う噂は、一般人の間でも真しやかに囁かれていたのだ。 ――今もしかしたら俺達の周りにも、造られた人間が居るかも知れないぜ―― 何て話していた噂好きの奴の顔を思い出す。 「……まさかそれがマジにあるなんて」 知らずまた溜め息が出る。そう言えばあの後、夜乙さんは俺と同い年じゃなくて26歳で空燥さんより年上(空燥さんは25らしい)と言う、えらい童顔であると言う事が分かったが、そんなんじゃもう驚けない位打ちのめされた。 最近はあんまり国からの仕事は無いんだ、落ち着いて来たし。単価が高いから生活していけてるけどそろそろ廃業かもね、ははは――何て笑ってられる彼が信じられなかった。モップを握る手を手を動かしながらぼんやりと思い返す。 ――じゃあ何で俺は雇われたんですか? ―――今も一応お客さんは居るんだよ、個人的に―― 入り口の方の扉が開く。目をやると糊の効いたスーツを来た男性が立っていた。 「どうも」 ――人を造って欲しいと、頼みに来る人達がね―― 仰々しく頭を下げた彼に釣られて、俺も頭を下げた。
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