カクテル言葉に翻弄される件

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「いらっしゃいませ。森國社長。今日は、バレンシアなんですね。 森國社長の分は幾分辛めに作ってあります。」 「ありがとう。さすが、マスターは僕の好みが分かってる。」 「(しゅん)にもご馳走して頂き恐縮です。そろそろ、カクテルの勉強をさせたいと思っていたところだったんです。定番のおつまみの盛合せをサービスしますので、マリアージュを教えてやって欲しいんです。お願い出来ますか? 」 「それは大役だな。 でも、僕で手助け出来るなら喜んで。」 それから、マスターは森國社長の耳元で何か囁いている。 「森國社長。バレンシアなんて、意味深ですね? 」 「あれ? バレちゃった? 」 「森國社長、オシャレな事しますね。本人は気づいてないみたいだけど。」 「いいんだ。僕が・勝手に・始まってしまったばかりだからね(笑)」 この時オレは、カクテルにはカクテル言葉がある事も、そして、バレンシアは気になってる相手に、好きなりかけてるよ、って伝えるものだったなんて全然知らなかったんだ。 カランカラーンと、ベルを鳴らして七尾所長が入ってきた。 いつものように、挨拶を交わし森國社長の隣に座る。 「いらっしゃいませ。七尾所長。 あの… 七尾所長って、オレの社長だったんですね? 」 「あ、気付いた? 」 「すいません。オレ全然知らなくて… 」 「大丈夫。気にしないで。 マスターが言ってなかったんだろ? 容易に想像できるよ。それに、そのお陰で、素の状態の旬君の働き振りが見られた。何も問題無い。これからもそのままで良いよ。」 「はい。 すいません。ありがとうございます。」 「ところで今日は、なんの日なんだ? 沢山並べて、随分楽しそうだな。」 「今日は、お客様も少ないって事で、スタンダードロングカクテルの勉強中なんです。」 「七尾所長も一緒にどうですか? オレの味覚じゃ自信なくって… 」 「いや、春日(はるひ)さんは入れてあげない。社長の好みに傾倒したらつまんないでしょう? 」 「それもそうか。 じゃ、俺は、いつものチンザノ。ドライで。 」 「かしこまりました。 氷は、アイスボールにしましょうか? 」 「もしかして、旬君が作ったの? 」 「はい。一応。マスターにはなんとか合格貰いました。」 「なら、それで貰おう。楽しみだな。」
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