⁂ 癒し合いからの・・・な件

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そぼ降る雨の中、タクシーがホテルに着いた。 森國社長が住まいにしているホテルだ。 オレの惨状を見兼ねて、気を遣ってくれている。 なんだか申し訳ない。 「先に言っとく。今夜は帰すつもりはない。僕もameno(アメーノ)と同じで火曜日が休みだ。君は先週は休講だと言っていたが、明日の予定は?」 「火曜日は元々、午後の1コマしか取ってないんです。でも、教授が発掘調査の通訳で海外に同行していて、今月は全部休講です。」 「了解。分かったよ。上のバーに行く?それとも部屋で飲む? 」 「すいません。気を遣ってもらって… 話を聞いて貰いたいからココが良いです。」 「そうだね。 僕もその方が良いと思う。部屋に、タンカレーとトニックウォーター届けて貰おう。つまみは何が良いかな? 」 「なんでもいいです。」 「胃に優しそうなものが良いよね。リゾットと、トマトのカプレーゼでも頼もうか。」 フロントへ電話をして注文をしてくれる。 「旬。 今日は何が有った? 」 「はい… カクテルの練習のとき、マスターの胸元に、リングが見えて、つい、先日、七尾所長と、話した時に、七尾所長が、薬指に、リングはめてるのに気づいてて、それで、、それで、、、同じだった。 … 同じリングだった。」 「そっか。気づいたんだね。辛かったね。」 「森國社長は… 知ってたんですね。」 「うん。知ってた。ごめんね。初めは君も知ってるんだと思ってた。知った上で、マスターを振り向かせたいんだと思ったんだ。その時は、流石に若いなぁーって思ったよ。」 「そうですか… 。」 「でも、話していくうちに、『(株)春と秋』の事も知らないし、この子、本当にマスターの事しか見えてないんだなって思って、その真っ直ぐで純粋な気持ちが眩しかった。」 「そんな… 」 「この前ここに来た時には、もう君に惹かれてたんだ。ここで君を抱いた時、春日(はるひ)さんの事なんて、頭になかった。ただ、旬だけが欲しかった。」 「でも、癒し合いだって… 」 「そうだね。旬にとってそれが良いと思ったんだ… でないと、旬が困るだろ? マスターの事が好きなのに… 」 「そうだったんですね。オレの為に… 」 「いや。 僕は悪い大人だよ。今だって、心に深手を負ってる旬を独り占めしている。旬のそんな表情を他の誰にも見せたくないんだ。」 「オレ… 」 また、ひと粒、涙が落ちた。
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