俺にだって、ヒミツくらい、ある。

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 西園寺要。三十二歳、未だ独身。家族構成は、祖父、父、母、兄(長男)、双子の姉、そして俺。  父は、西園寺ホールディングス株式会社の現社長。母も我が家同様名家の生まれで、若かりし頃から類い希なる美貌をも誇る才媛である。  一度くらい経験してみても損はないじゃないかとの好奇心で臨んだ見合いの席で恋に落ち電撃結婚をしたふたりは、いまでは多少の貫禄は付いたが生来の美貌は衰え知らずのナイスミドルと、四人もの子どもを出産したとは思えない美魔女となった。  そんな父母の間に誕生した末っ子次男の俺は、周囲のおとなたちに溺愛されて育つ。  乳児期から幼少期の俺は天使と呼ばれ、誰もが俺の美貌と純真無垢な笑顔に魅了されたらしい。それこそ、誘拐の危機にさらされたこともあったほどに。  普段の子守子育てには専任の女中が付けられ、遊び相手は五歳年上の姉たちだった。  姉たちにとっての俺は、生きたホンモノの人形。乳児期は赤ちゃん人形、幼児期は、たまに逆らうこともあるが、とりあえず指示通り自動で動く人型ロボットとして、日々、幼い女の子が好むありとあらゆる遊びに重宝されたらしい。  俺は、姉たちにとって体のいい玩具だったのである。  着せ替え人形遊びも毎日の日課。日替わりで我が家へ遊びにやって来る姉たちの友人の大多数は、いつもスカートを穿かされ髪を結われ連れ回されている俺を、女の子だと信じて疑わなかったらしい。  しかし、いくら甘やかされた末っ子でも、一般男子並みの成長過程を辿る。小学校の高学年ともなれば、自らの境遇を自覚し羞恥を感じるようになった。そうなれば当然、人並みに反抗もしてみるわけで。  尤も、逆らえばどうなるか。それは、言わずもがなで——姉たちの恐ろしさを心身に刻みつけられ、いまに至る。  進学した先は、校内はほぼ男率百パーセントの男子校。通学だって運転手付き自家用車と、女の子と袖すり合う少々の縁も無し。  年頃の男ばかりが犇めくむさ苦しい環境で唯一、若い女性の匂いのする場所は、自宅のみ。その自宅にですら、いるのは姉たちとその取り巻きで、俺にとっては拷問部屋のようなものでしかなかった。  だが、十六歳になったある日、そんな俺にも『春』が訪れる。  相手は、度々我が家へ遊びに来ていた姉たちのサークルの後輩。名前は井川結衣(いがわゆい)。姉の取り巻きに恋心を抱くなんぞ、まったく安易なチョイスではあるが、それには理由があった。
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