俺にだって、ヒミツくらい、ある。

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「あ、や……だめ、かなめくん……」  未だ耳に残る、結衣の甘い声。  好奇心真っ盛りの初心な俺には、そういうコトを為すための場所へ行く勇気も無かったのだが、両親は旅行、姉たちは早朝から出かけ夜まで帰らず、完全に無人ではないが人払いは可能、と、滅多に無いチャンスを逃すほど、奥手でもない。  ふたりとも初心者だったが、この瞬間を待ち望み、予習も完璧。準備を整え、体重をかけすぎないよう注意を払いながら結衣を組み敷く俺の心と体は、これ以上ないほど熱く震えていた。 「結衣……いい?」  潤んだ瞳で俺を見上げて結衣がコクンと小さく頷く。なんと儚げなかわいさだろう。俺は全神経を研ぎ澄まし、一点に集中する。狙いは定まった。失敗は許されない。  いよいよだ。  ついにオトナへの階段を上る——俺は緊張を解すべく、ふーっと息を吐いてから歯を食いしばり、ゆっくりと侵攻を開始した。 「あ、ううっ」  結衣の表情が苦しげに歪んだ。事前準備が足りなかったのか、と、一瞬怯み動作を止めたが、引き返すなんていまさらだ。俺は、ごめんね、でも、すぐだから、と、心の中で詫び、さらに深みへと腰を押し進めた。 『痛いじゃない! もっと丁寧にやってよ。自分だけ気持ちよきゃそれでいいわけ? ああっ……痛っ! もうっ! これだから童貞ってホント、いや!』 「……?……」  ——なんだ? いまの?  ゾクゾクと得体の知れない感覚が、下半身から背中へ駆け上がり脳に突き刺さる。挙動不審の俺を、結衣が不安げに見上げた。 「かなめ……くん? なに? どうしたの?」 『また止まった! まったく! なにビビってんのよ? さっさとやりなさいよ下手くそ。前戯だってぜんぜん気持ちよくなかったしー。演技するのも大変なのよ? あーあー、失敗したかなぁ。年下だけどお金持ってるし遊んでそうだし面白いかと思ったのに、まさかの童貞くんだもんなぁ……ホント、こんなに下手くそとはおもわなかったわ』  細い両腕を背に回した結衣に抱き寄せられた俺は、結衣の首筋に顔を埋め、その声を打ち消すように、彼女の名を呼んだ。 「結衣……」  ——幻聴? そうだ、これは幻聴だ。 「かなめくん……好き」  結衣のこの甘く潤んだ瞳を見ろ。こんなに蕩けて、俺との行為に夢中になっているじゃないか。  微笑んだ結衣のしなやかな指先が、俺の背筋をつーっと撫でた。 『なんかまずくない? 童貞くんへたってきたみたい。どうしよう? 煽ったら復活する?』 「!」  ——童貞、童貞、童貞、童貞! 誰だってはじめは童貞なんだぞ? 童貞のなにが悪い?いや、違う。重要なのはそこではなくて。  情熱も好奇心も欲望も——此処までだった。
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