いくらわたしだって、そんなに容易くはない。

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 スリッパを脱ぎ、足音を立てないように摺り足で走る。ベッドの脇に置いたバッグを漁り、貴重品の段ボール箱に文字を書いた極太フェルトペンを取り出した。 「油性だけど……黒だし、問題ないよね?」  尤も、誰かに見られたとしてもわたしには無関係。細かいことは気にしない。  じっとりと観察されようが、念入りに弄くり回されようが、専務は相も変わらずよく眠っている。この分なら、明日の朝までぐっすりだろう。  広げた両足の間にそっと腰をおろし、はだけているバスローブをさらに左右に開いて下腹部まで露出させた。  白鳥(・・)も面白いけれど、やはり、基本はゾウさん(・・・・)よね。  極太フェルトペンの蓋が、キュッと小さな音を鳴らす。と、同時に、わたしはゴクリと息を飲んだ。  耳が大きいのはアフリカのほうだったか——それとも、インド?   「ふーふふん、ふーふふん、ふーふふふふふふふふ、ふーふ、ふふふ、ふ、ふーふふふふー」  よし。描けた。  カチッと、フェルトペンの蓋を閉めて立ち上がり、我ながらなかなかのでき、と、自画自賛しつつ、カンバスとなった裸体を見下ろす。 「さて。やることは全部やったし、寝るかな……さすがに今日は疲れたわ」  欠伸をしながらそういえば、と、思う。  寒くもなく暑くもないちょうどよい季節ではあるが、風呂上がりに裸のまま朝までソファに放置して、風邪を引かせてしまったらさすがに気の毒だ。  ちょうどよくベッドに二枚重ねてあったうちの一枚のブランケットと、わたし愛用の抱き枕を持ちリビングへ戻る。ソファの背もたれと専務の隙間に抱き枕を押し込みブランケットを掛けた。  ……実に間抜けな寝姿だ。  明日、描かれた大作に気づいたあなたは、どんな反応を示すのだろう。 「おやすみなさい、専務。いい夢を」  ——貴重なモノを……ありがとうございました。合掌。  わたしの囁きが聞こえたのだろうか。寝息を立てていた専務が、目を閉じたままぎゅーっと枕を抱き締め、幸せそうに微笑んだ。  そうだ。寝る前に手を洗わなくっちゃだった。  *
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