いくらわたしだって、そんなに容易くはない。

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 買ってしまった前々から百均の園芸コーナーを眺めては気になっていた小さなもっこりサボテン。  高級マンションのお洒落なテラスには少々不似合いかも知れないが——べつにいいよね、わたしが楽しければそれで。  ついでといってはなんだけれど、職場のテラスにもお裾分け。もちろん、ぞうさんのジョーロも忘れずに。  実用には少々物足りないけれど、かわいいは正義だ。 「ふーふふん、ふーふふん、ふーふふふふふふふふ——」 「よっ! あいざわぁ、朝っぱらから鼻歌なんか歌っちゃってご機嫌だねぇ」  振り返ればいつでも腹に一物、佐伯の満面の笑み。朝っぱらって時間でもないでしょうに。 「たしかにまだ午前中ではありますが……現在の時刻は、十時三十七分。これ、おはようございます、なんですかね?」 「えー、なにそれ? なつかしー」  破顔した彼は問いかけをスルーし、わたしの右手に握られたぞうさんを奪い取った。子どもか。 「へー、まだこんなの売ってるんだ? 懐かしいな、俺も子どもの頃持ってたよ赤いヤツ」 「そうですか。これは百均で求めたのですが、この緑色だけではなく、赤、青、ピンク、黄色と、売り場に色とりどり並んでいました」  そうなんです。ぞうさんジョーロの人気は不滅なんです。 「で? どう? 同棲セイカツ(・・・・)」  本題はやはりそれですね。 「同居ですか? どうと言われましても……まあ、快適? ですかね?」 「へぇ?」 「空調は完璧、お風呂は大きくてアワアワですし、広くてフワフワのベッドは熟睡できますし——欠点を上げるとしたら、そうですね、実用的な生活用品がまったくないところでしょうか? でもそれは必要に合わせて追い追い揃えていけばよいものですし……尤も、同居を続けるのであれば、という前提ではありますが……」  ——そう。まったく(・・・・)ない。
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