さすがの俺だって、ヤラレっぱなしは嫌だ。

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 さらっとした手のひらが俺を愛でるが如くそっと撫で、やわやわと揉み込む。膨張したそれの裏側を、細い指先が付け根からつーっとなぞったと思えば、滑った先端にくるくると円を描く。  瞼を閉じていてもわかる。俺が触れ慣れている相沢の小さな手の感触。 「う……」  刺激を受け下腹部がキュッと締まると同時に、甘美な痺れがぞわぞわと腰から背筋を舐めるように駆け上がり、惚けた脳を直撃する。  俺の表情を楽しんでいるのか、時折顔にかかる相沢の熱い吐息も艶めかしい。  握られ、上下に扱かれればさらにその快感に悶え、己の意思とは無関係に引いたり突き出したりと、腰が暴れる。  甘い責め苦。  もうこれ以上耐えられないと奥歯を噛みしめ首を左右に振った。 「自分ひとりだけ気持ちよくなっちゃって。専務ってば、いけない子ですねぇ」  淡々とした囁きと共に、痛いほど堅くなったそれの根元をキュッと締められ——。 「あぁ……」  ごめんなさい許してください。もうバカなことは考えません。  お願いだから意地悪は止めて。  頼むから、逝かせて——あいざわぁ……。 「ふーふふん、ふーふふん、ふーふふふふふふふふ——オチテナーイ」  こうして鏡に自分の局部を映し感嘆のため息をつくのは、何度目だろうか。まったく。油性フェルトペン恐るべし、だ。それにしても。  ぞうさんのくせに髭もじゃなのはご愛敬だが、このつぶらな瞳といい愛くるしい耳といい、なかなかどうして、うまく描けている、ではなくて。  ぞうさんが、物語る。あれは、夢ではなく現実のできごとである、と。  相沢は、俺の此奴(コイツ)を間近で直視し、触れて弄んでキュッと締め上げて——うう、まずい。  ちょっと思い出しただけなのに、ぞうさんの鼻がムクムクと成長を開始している。 「くっそ。喜んでる場合じゃないだろうが」  撫で繰り回された細い指の感触も、暖かな手のひらの温もりも、鼻歌を歌いながら表情を崩し、フェルトペンを走らせたているであろうその様子も、甘美ななにもかもを夢だと勘違いしていたなんて。  グラスを取り違えたのも、中身をうっかり飲み下してしまったのも、酒精に負けたのも、すべて俺の不徳のいたすところではあるが。  悔しい。  己に描かれたぞうさんを眺めるたびに、想いが全身を駆け巡る。  くっ。俺としたことが、なんとももったいないことを——ではなくて、一方的にやられっぱなしって、いったいなんなんだよ!  後悔後を絶たず。  毎度毎度、夢とも現ともつかぬ妄想を全開に後悔すればするほど、ぞうさんの鼻は太くたくましく元気になる。  なんてこった。  コイツが実践で役立つかどうかはべつとして、あいつ、相沢の影響力は計り知れないな、と、あらためて実感する。  だがしかし、こうして局部を見つめていてもなにかが進展するでもなく。  さて。 「もう一度、水浴びするか」  鏡に映るぞうさんに後ろ髪を引かれつつ、俺は再びシャワーブースのドアを開けた。   *
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