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「なるほどわかりました。橋田常務のお嬢さまは、すぐに激高して他人に手を上げ幼稚な言葉で罵倒するくらいしか、能の無い方だったのですね」
「なっ、なによ?」
必死で踏ん張っているようだけれど、わたしのたった一言で既に、動揺が見て取れる。反撃される習慣が無いから、ちょっと睨みつけてニヤリと笑ってみせれば、すぐに怯んでしまうのだ。温室でちやほや育てられたお嬢サマなんて、ちょろい。
「どうやらおわかりでないご様子なので教えて差し上げますが、あなたがわたしに敵意を向けるのはお門違いです。わたしが西園寺に相応しいか相応しくないか——それを判断するのは、西園寺本人であって、あなたではありません。この件について異論がおありでしたら、本人もちょうど目の前にいることですし、直接殴るなり罵倒するなりすればいいのではありませんか? 尤も、なんの関係も無いあなたに口を挟む理由があるとは思えませんが」
「かっ、関係無くなんかないわよ! だって、要さんと私はパパが……」
「それは、お見合いの件でしょうか? その件でしたら西園寺の方から何度もお断りしているはずですが?」
——これだけ付きまとっておいて、いまさら見合いもなにもないだろうに。
「それは……それは、そっちの勝手でしょう? こっ、こっちはパパが会長を通して正式に……」
「西園寺家に於いての婚姻は、第一に、当人同士の意思を尊重するものであると聞き及んでおりますが? 社長、わたしの認識は間違っておりますでしょうか?」
「いや、間違っていないよ。きみの言うとおりだ。僕も恋愛結婚だもん。結婚っていいもんだよー。毎朝ね、静ちゃんのかわいい寝顔にチュッってしてから起きてコーヒー淹れてさ、コーヒー入ったよって起こすと、静ちゃんが寝ぼけたままチュって……」
あなたの結婚生活事情まで訊いていません。
「だからって、勝手に婚約するなんて酷いわ!」
面白いことを仰いますね?
「婚約は、西園寺とわたしとの間でのことです。当事者どころかまったくの無関係なあなたに、勝手だの酷いだの言われる謂れはありません」
「でっ、でも……だって……だって、あなたみたいなちんくしゃ眼鏡ブス……」
「話を蒸し返しますか? いいでしょう。あなたのおっしゃるちんくしゃ眼鏡ブスを自らに相応しいと選んだのは西園寺です。西園寺から断られ続けたあなたは、そのちんくしゃ眼鏡ブス以下。人としての魅力も無ければ女としての価値も無く、相手すらするに及ばず、と。それが、西園寺の認識ということになりますが——ここまで言われてもおわかりになりませんか?」
——だ、か、ら。お呼びでないって言っているのよ。
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