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翌日、父が盂蘭盆の檀家回りに出掛けると、所蔵品リストを手に、兄は蔵に籠りました。
「軸が2幅、ない」
その深夜、兄は表情を固くして、調査結果を報告してくれました。作者不明ながら、絹地に極彩色で羅漢が描かれたもので、美術的な価値はともかく宗教的価値のある掛軸でした。
「ど、どうしよう」
「騒ぐなよ。まず、お前が廊下でヤツを見たのが4日前だろ」
「うん」
「それから今日まで、ヤツは外出したか?」
「ううん」
聡心は基本的に、住職が不在の間、寺の留守を預かる身です。盂蘭盆が近くなりますと、墓参りの檀家さんも増えますから、外出することはありません。
「あ――それじゃ、まだ持っているかも!」
思わず立ち上がりかけた私の膝をグイと畳に押さえつけると、彼自身はゆったりと足を崩して胡座をかきました。
「まぁ、待て。ヤツが単独犯なら、ブツはあるかもしれん。だけど仲間がいたら、もうここにはないだろう」
「な、仲間?」
「考えてみろ。修行僧の持ち物なんて、たかが知れてる。余計な荷物をいつまでも手元に置いておく筈がない。ましてや盗品だぞ」
指摘はもっともでした。
「でも、怪しい人なんか見かけなかったけど……」
「お前、今は盂蘭盆の時期だぞ。遠方から来る檀家さんの顔まで、全部知ってるのか?」
「そうか……」
私は、絶望的な気分になりました。ところが、そんな私を面白そうに眺めると、兄はニヤリと笑うのです。
「盗まれた3点が戻ってくる可能性は低い。だが、犯人を挙げることは可能だ」
「ど、どうやって?!」
「まぁ、任せておけ」
兄は私の肩を叩いて、これ以上楽しいことはない、と言わんばかりに満面の笑顔を見せました。
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