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「……義男くん」
懐から取り出した観音菩薩像を元の木箱に収め、踵を返した聡心は、扉の前に立つ俺の姿を認めた。
「仁王像より、観音菩薩像の方が金になるんじゃないのか」
「さて……この悪戯は、貴方でしたか」
相手がガキと見たか、ヤツは穏やかに瞳を細めた。
「仁王像と羅漢の軸がない。あんたに聞けば、分かるかと思ったんだけど?」
「何のことでしょうか」
涼しげな二重の下の眼差しが、ヒタとこちらを見据える。
「所蔵品は寺のモノじゃない。宗派全体のモノだ。分かっていて横流ししたなら、それなりの覚悟があるんだろ」
住職は寺守とも言う。あくまでも寺を任された立場であり、喩え寺に生まれ育っても、寺の所蔵品は個人の財産ではない。
「何か、誤解なさっているようですね。拙僧が盗んだという証拠でもあるのですか」
「やましくないなら、何で夜中にコソコソと返しに来た? 堂々と親父のいる前で、俺の悪戯だと突き出せばいいだろう」
眉間に一本、筋が走る。初めて見せた感情は、不快感か。
「幼き者は、つまらぬ過ちを犯すもの。あからさまな咎め立てばかりが解決ではありません」
盗人が情けを説くとは。思わず苦笑いが溢れた。
「それじゃ、教えてくれよ。幼くない者が犯す過ちは、どうすればいい?」
皮肉の応酬。聡心は答えずに腕を組んだ。
「百歩譲って、消えた3点についてはシラを切ってもいいさ。けどな、あんた、ここにどうやって入ったんだ? 親父に説明してくれよ」
瞬間、ヤツの表情が強張った。
「――ご住職」
背後から涼しい風を感じ、振り向いた。開いた蔵の扉の向こうに、泣きそうに顔を歪めた直純が、親父に腕を掴まれて立っていた。
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