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「不眠症に効果的な方法が知りたいだと?」
「うん。熟睡出来るアイテムとか、なんかねぇかな?」
またもや遠藤に泣きつく俺。休み時間の度に奴のクラスに出向くのが日課になりつつある。
「お前が不眠症とは意外だな」
「いや、俺の弟。話すと長くなるからアレだけど、ぐっすり眠れる方法を探してるんだよ」
「ふむ。肉体的に疲労すれば睡魔が来ると思うが。それでも眠れないならオルゴールや心地よい香りで睡眠を促すしかないな」
なるほど。オルゴールはいいアイデアかもしれない。
早速検索しよう。【スヤスヤ 寝付きが良くなる オルゴール】ポチッとな!
1位 寝ない子もぐっすり♡胎内サウンド付きベッドメリー ★★★★★ {癒されるメロディーと可愛い動物がくるくるまわり、ベビーもスヤスヤ寝てくれました。 東京都30代女性} わぁ、口コミ評価高い♡よし、これにしよう……ってなるかーい!
「おい遠藤! 検索したら赤ちゃん用のくるくる回る奴がヒットしたぞ。こんなもん太湖に渡せるわけねぇだろ!」
「お前の検索の仕方に問題あるんじゃないか? 【リラックス効果 音楽 CD】で探せばいいだろ?」
「オッケーグールグル! あ、ヒーリングミュージックって出てきた。帰りTATUYAで探そっかな。なぁ遠藤も付き合ってくれよ」
「……新田よ。この前僕が言った事をもう忘れたのか? 綾瀬真緒を一人にするな。今だって彼ひとりだろ? 放っといて大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。教室で居たらひとりじゃねぇし」
「だが次は体育だと聞いていたが?」
「やっべえ! 忘れてたわ。じゃあ先に更衣室で着替えーー」
ハッとしてダッシュで向かうと予想通りイケニエ儀式の真っ只中。
ドロップキックで蹴散らし儀式を阻止。茶色い塊に服を着せたが、何も喋らない様子からいつも以上に怖い思いをしたのだろう。
体育を諦めて落ち着けそうな場所に移動した。
「何か飲むか? たまにはおごってやるよ」
反応がない。ただのしかばねだ。
「もしもし真緒くん? えっ生きてる? あっもしかして何か喪失しちゃった……?」
重くなりすぎないように明るく言ってみたが無反応。これはアウトだったに違いない。
「あー……真緒、深く考えんな。今回のはまぁ、強めのカンチョーぐらいに思っとけよ。ぶっちゃけ俺も似たような経験あるし。
昔、アホの蒲田にほうきの柄で突かれてビビるほどめり込んだんだぜ? それに比べたらまだ安全?な素材だし、あんま気にすんな! なっ?」
「……僕は脱がされただけで、入れられてないよ」
「それならそう言えよ! 変な暴露しちまったじゃねぇか!」
しかし真緒はセーフだったにもかかわらず様子がおかしい。
更衣室にはイケメンでも何でもない地味めの連中が真緒を取り囲んでいた。
そいつらの一人がカメラを向けていたが、よく考えると今まで真緒に狂った奴らはそんな事をしなかった。
つまり悪意のある“遊び”だったのか。
気付いた瞬間、背筋が凍った。
「……どうして僕は、いつもこんな目に遭うのかな……? 一人にならないようにちゃんと気を付けて“安全なグループ”の人たちと更衣室に行ったのに。派手な人たちが出ていったら突然豹変したんだ……。何でだろう。何でいつも僕の周りがおかしくなっていくの? 僕が悪いの? ねえ、どうしたら普通の生活が出来る? 教えてよ智樹。どうしたらどうしたら」
「真緒、落ち着けって。お前は何も悪くない。手を出してくるアイツ等が問題ーー」
後の言葉が続かなかった。
目の前の埴輪が、赤黒く変色していく。
触れると砕け散りそうな幼馴染の姿に、俺は呆然と立ち尽くした。
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