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モテモテハーレム到来や! と思いきや、突然雲行きが怪しくなった。
「……真緒に渡した?」
桶谷は指先で軽く自分の唇を触ると『うん』と頷く。
「その日新田くん、お休みしてたからガッカリする子が多くてね。土日挟んでたし他の子は諦めムードだったんだけど、ミカちゃんたちはどうしても渡したいからって綾瀬くんに頼んでたの。
……私もそうしたかったけど、ミカちゃんたちみたいに可愛くないし、渡してもウザがられるだけかもって卑屈になっちゃって」
「……桶谷」
「あは。見た目を派手にしてもネガティブな性格は変われないね。
昔、培養土をひっくり返しちゃった時に新田くんが助けてくれたの、覚えてるかな? 実はそれがきっかけなの。
それから話し掛けるタイミングを毎日探ってたんだけど、いつも綾瀬くんが隣にいて全然近付けなかった。
綾瀬くんって凄く綺麗だから新田くんと並ぶとなんだかーー理想のカップルみたいだった」
はぁ……と溜め息をつく彼女が妙に大人びて見えた。
だが、桶谷にしろ他の奴にしろ真緒を“綺麗”だと言う事に違和感がある。
アイツはただの友だちだ。ハニワになる前も野球やゲームが好きなそこら辺にいる普通の男で、家が近所だからよく一緒にいただけだ。
「真緒は単なる幼馴染だよ。そんでもってアイツは男」
「……うん」
「学校でも俺と真緒の関係を勘繰る奴いるけどさ、俺は一度もアイツを綺麗だと思った事ないし真緒よりもずっとーー」
“桶谷の方が綺麗だよ”ーーって言えたらとっくに童卒しとるがな。
「猫の梅子の方が美人だな」
ヘタレな俺はここぞという時に決められず、しょーもない事しか言えなかった。
それでも彼女は『梅子って新田くんちの猫?』と笑ってくれる。
『真緒んちの飼い猫だよ』と言うと『綾瀬くんちの猫なんだ? 意外と古風な名前だね』なんて彼女がニコニコするから“もうこれはイケるんじゃないか“と確信した俺は真緒を口説こうとするイケメン共みたいな甘い声で『あのさ、桶谷……』と囁いた瞬間。
メッセージアプリの着信音が俺のウィスパーボイスを遮った。
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