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勝手知ったるハニワの家。
呼び鈴を連打しても出ないから雨樋を伝って奴のベランダに侵入。
そしてガガガガンと窓を叩くと、ヨロヨロのハニワがやって来た。
「……智樹? お見舞いに来てくれたの?」
上質なシルクのナイトウェアを胴体に巻き付けたハニワ……もとい真緒が嬉しそうな気配を出して『何か飲む?』と振り返る。
冷蔵庫完備の部屋は妬ましいほど広く、その反面真緒の両親は不在がちで家事は自分でやらなければならない。
俺は自宅感覚で冷蔵庫を物色した後『お前、俺のチョコをどこにやった?』と真緒に詰め寄った。
「えっ何の事?」
「しらばっくれんな! 中3のバレンタインデーの時にミカちゃんとユウナちゃんから俺宛のチョコを預かっただろ? どこだ? まさかお前が食ったんじゃないだろうな!」
胸ぐらーーは掴めないのでシルクを掴みガクガク揺する。
「……智樹、ちょっと落ち着いて」
「隠し立てすると容赦しねぇぞ! お前がミカちゃんとユウナちゃんからチョコを預かる様子をみゆみゆが目撃してるんだ! 言い逃れは出来ないからな!」
「……智樹、待って、あの」
「お前がちゃんと俺にチョコを渡してたらとっくに童卒してたかもしんねぇのにどう責任取ってくれんだ!」
「智樹!」
「なんだよ? 逆ギレか?」
「……服、脱がすのやめて。……寒い」
ゑっ? と思いよく見ると、強く揺さぶったせいかボタンが取れて前がはだけていた。
「あ、悪い」
手を離すとハニワが恥じらいながら胸を隠すように前屈みになる。(まぁポッカリ穴が空いただけの虚無顔だから実際には恥じらってるのかよくわからないが、雰囲気的にそんな感じだ)
そんでもってちょっと変な空気になり、話し掛けても反応しなくなったから俺はいよいよ本物の埴輪になってしまったんじゃないかと心配になる。
しばらく経って真緒が『チョコレートなら智樹のおばさんに渡したよ』と呟いた。
「本当は直接渡すつもりだったけど、あの時智樹はおたふく風邪になってたでしょ? おばさんに“うつると危ないから”って部屋に入れてもらえなかったんだ。ーー疑うならおばさんに聞いてみなよ」
隅っこでいじけたように体育座りの真緒が俺の顔を見ずにそう言った。
「……そうか。疑って悪かった。……ボタン、ちぎってごめんな」
「……別にいいよ」
「あーーうん、それと早く元気になれよ。お前が居ないと退屈で仕方ねぇんだ。じゃあな」
すると真緒がパッと顔を上げて『明日は絶対行くから!』と力強く宣言。
「いつもみたいに呼び鈴鳴らして。……待ってるから」
心なしか熱っぽく聞こえるのはまだ不調なせいだろうと考え『まぁ無理すんな』と真緒の頭を撫でる。
『おやすみ、智樹』
俺がベランダから出て行く様子を真緒はずっと窓から見ていた。
ほんの少し、不気味だなと感じた事は秘密だ。
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