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 希望の光が見えた俺は清々しい気持ちで『今日の晩飯何だろうな!』と家に帰ろうとした。 気分的にはフルマラソンを完走した時と同じだ。やりきった感がある。  しかし太湖は違うようで『インターバル取ったら2本目いくぞ』と帰宅を阻止。 さすが現役陸上部ッ! 限界まで追い込む事に躊躇(ちゅうちょ)がない! 「太湖……一回、間隔をあけてトライするのはどうかな?」 「何でだよ? とっとと済ました方が楽だろ」 「うーん……まぁ、でも連続で必殺技が使えないのと同じで、ある程度気持ちのゲージ? みたいなもん貯めてからの方が良さそうだしさ」 「…………何分待てばいいんだ?」  1ヶ月ぐらいのスパンで考えていたが、やっぱり太湖は分単位。間隔が非常に短い。 「……そうだな。6000分ぐらい待ってみようかーーーーうぐっ」  暗に“四日後”と言い換えた瞬間、頭皮に悪影響を及ぼす握力で俺の頭を掴み、2セット目を開始した太湖。 ついさっき習得したはずの紳士的(ジェントルマン)なキスとは打って変わり、野蛮さ100%の、もはやキスなのかどうかも怪しい行為に走っていた。……今なら牛タンの気持ちが痛いほどわかる。  エブリデイ鼻炎の俺にとって、息継ぎなしのそれは生死に関わる問題だ。ふんがふんがと、鼻息を荒くして酸素を求めるが、逆に鼻水が喉に流れて変なむせ方をする始末。 唾液どころか、鼻汁まで交換させてしまって太湖には本当に申し訳ない。百味ビーンズのハナクソ味だと思って忘れてくれ。 あ、待てよ。今の俺は素焼きの埴輪だからギリセーフ……いや、頭皮に対する圧迫感からして音でバレてるわコレ。ごめんよ太湖。それ以上されたら兄ちゃんハゲそう。  史上最悪の解呪のキスは、突如として現れた参拝者によって終幕を迎えた。 「おい! そこで何をしている!」  こちらに向かって鋭く咎める声は、なんだか聞き覚えがある。 どうか知り合いではありませんようにと、祈る俺に『お前……新田か?』と希望をへし折る声が続く。 「お前は誰だ」  同じく“新田”の太湖が、間髪入れずに問い返した。 「お前こそ誰だ? ……新田に何してやがる!」 声の主は財前師だと判明。 二人とも新田なのでコントみたいな展開を避けるべく、『財前師こそ、こんなところに何しに来た!』と太湖を隠すように前に出た。  
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