2080人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日真緒と登校。
病み上がりでフラフラしているが、機嫌良く鼻歌混じりで歩く様子は何か良い事があったらしい。
教室に着くと真緒信者がわさわさっとやって来て『真緒、大丈夫?』『まだ顔が赤いぜ』『俺が元気を注入してやろうか?』とアホみたいな事をほざいてる。
そこへ『真緒! 心配したぞ』と南斗水鳥拳の使い手みたいな奴が現れて真緒をぐっと抱き締めた。
「真緒……お前がいないと俺の心は太陽が昇らぬ空のようだったぜ……」
え、どういう意味ですかそれ?
「……可哀想な真緒。まだ顔が熱い。体が辛いなら俺の腕の中に来い。安らかに眠れるはずだ」
つまりその丸太みたいな腕で安楽死させてやるって意味ですかい?
「あぁ……なんて愛らしい唇なんだ。その甘そうな膨らみを心ゆくまで啄みたい……」
誰か翻訳機持ってきて!
しかし真緒は南斗の使い手ーー通称レイをガン無視して『智樹、昨日分のノート写させて』と俺の方を向いた。
ちなみに真緒は俺の前の席。当然レイが俺をこれでもかと睨みつけてくる。
「新田、俺の邪魔をするならただではおかないぞ」
座って息してるだけで責められる俺。解せぬ。
「……財前師くん、悪いけど自分の教室に戻ってくれない? 授業の遅れを取り戻したいし、邪魔しないでほしいんだ」
真緒にバッサリ“邪魔”と言われたレイがわなわなと震え出し、お前のせいだと言わんばかりに俺の机に拳を振り下ろした。
「勝負だ、新田。俺とお前のどちらが真緒に相応しい男なのかはっきりさせてやる」
どよめく教室。近くいた女子がきゃーっと嬉しそうにはしゃいだ。
悔しい事にレイ……いや、財前師は美形だ。特濃ソース系ではあるものの、真緒に出逢うまで美女をとっかえひっかえしていた経歴の持ち主で当然童卒を済ませているだろう。
だから俺は、そんなイケメンが憎くてたまらない。
「どうする新田? それともこの俺に怖気づいたか?」
フッとニヒルに笑う財前師はテコンドーの有段者だ。
それに対し俺は元野球部で特技は遠投。普通に負ける。
それでも立ち上がり財前師と睨み合う。
幸い、身長だけは誰にも負けない。
「売られた喧嘩は買ってやるよ」
「智樹!」
「ほう、いい度胸じゃねぇか。表に出ろ新田! 今から死闘を行う!」
「……いいぜ。だがな、喧嘩を売る相手を間違ってないか?お前は重要な事を見落としている」
「……何だと?」
「隣のクラスの藤堂が真緒をトイレに連れ込み下剤まで用意していた事を知らないのか?
お前の言う“甘そうな膨らみを心ゆくまで啄んでたぜ!」
「智樹!!」
「……な、な……んだ……と?」
「藤堂にいたぶられ泣いて喘ぐ真緒を危機一髪で助け出したのは俺だ。でもその時お前は何していた?真緒の窮地に駆け付けず、何が“死闘”だ? 倒さなければいけない相手は俺ではなく真緒を泣かせた藤堂だろ?」
「と、藤堂が、俺の真緒に、手を出したのか……?」
「出した出した。真緒、すっげえ喘いでた。まぁ、ちょっと演技がかった喘ぎ方だったけど」
「智樹! もう黙って!」
「……そんな、俺の、可愛い真緒が……」
「財前師、真緒の悲しみを晴らすのはお前だ。行け! 藤堂を倒して来い!」
「ぬぅ……! 憎き藤堂! お前の全てを葬ってやる!」
ーーこうして俺は財前師を追い払う事に成功した。
そしてひそかにイケメンバトルロイヤルを仕組み、この学校のイケメン(非童貞)をひとり残らずぶっ倒す事を夢に今日も真面目に授業を受けた。
最初のコメントを投稿しよう!