2080人が本棚に入れています
本棚に追加
食欲湧かないとグッタリする真緒からありがたくコンビニ弁当を頂戴していたお昼時。
『新田智樹はいるか?』
教室の出入り口前で上げ下げメガネ(名前は忘れた)が立っていた。
とりあえず無視。
また童貞検証とか言い出したら面倒くさいし俺の精神衛生上よろしくない。
しかし『新田くんはあそこにいるよ』としっかり者の委員長がメガネに教えてしまった。
メガネめ。俺を口実にちゃっかり女子と会話しやがって!
「に、新田、ちょっと話がある」
クソダサい黒縁をしきりに上げ下げしながらメガネが近付いてきた。
「昨日の検証結果の話だかーー」
「興味ないし俺は忙しい」
スパッと断るとメガネがオロオロして眼鏡のレンズを高速で拭き始める。
おっとマズイ。コイツ美形だったわ。
女子に美形がバレて先に童卒なんてされたら俺はもう立ち直れない。
「ーーが、俺とお前の仲だ。話を聞こう」
さり気なく眼鏡を顔に戻しクソダサをキープ。
ついでに髪をグシャグシャに乱し更にダメ男にした。メガネよ、モテる事なかれ。
「で、では、新田。図書室に行こう。あ、綾瀬真緒、すまんが新田を借りて行くぞ」
チラッと真緒を確認するメガネ。真緒は体を起こしてこちらを見ていたが、いつもの虚無顔で『どうぞ』とだけ言った。
○
『やはり、近くで見ても遮光器土偶だな。お前は相変わらず埴輪に見えるのか?』
メガネは腕を組み難しい顔で俺に訊ねた。
「ん。気が付いたら真緒がハニワだった。質感も焼き物だし単なる幻覚じゃなさそうだぜ」
「そうか。さすがに僕は綾瀬真緒に触れた事はないが、お前がそう言うなら同じなんだろうな」
どこか寂しそうに呟くメガネ。
「お前さ、やっぱり真緒の事好きだろ?」
「な、なぜそうなる?!」
「だってそうだろ? さっきの真緒の態度からして知り合いじゃなさそうだし、クラスも違うから真緒が遮光器土偶に見えようがなんだろーが好きでもなきゃ別に何も困らねぇだろ?」
「人間が遮光器土偶に見える時点で困るだろ!
そ、それに僕は綾瀬真緒に感謝こそしてもす、す、好きとかそんな感情は持ってないぞ!」
「感謝?」
「そうだ。ーーお前には関係ない話だが、知りたいか?」
「全然」
「ならば話してやろう。ーーあの日は記録的大寒波だった」
興味ねぇって言ってるにもかかわらず、メガネが自分語りを始めた。
最初のコメントを投稿しよう!